第七章 天秤にかけるもの

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第七章 天秤にかけるもの

 私は結局、ノバラさんに謝れないまま、図書館に取り残された。 「お父さんのご飯を作らないと」  そういって、帰って行ったノバラさん。追いかければよかった。名前を呼べばよかった。なのに、できなくて。  少しずつ落ちていく太陽を、多目的室の窓から見つめていた。  ノバラさんに、いいたいことがたくさんあった。  親がノバラさんのことを褒めないなら、私が褒めるから。  私はノバラさんのすごいところ、たくさん知ってるよ。  手先が器用で、魔法のようにお花を出してくれるところ。かわいいアクセサリーが作れるところ。家事をがんばっているところ。他にも、いっぱいある。  私を勇気づけてくれたあなたのほうが、悲しそうな顔をしているのはどうして?  ノバラさんには、笑っていてほしいのに。  どうして、私は手をつかんで、引きとめなかったんだろう。何もいわないまま、こんなところで突っ立っているんだろう。  〝今〟は、クリームソーダの氷が溶けるよりも、早く消えてなくなってしまう。  動くんだ。今にまだ間にあうなら、走れ。つかんで、引っぱりあげるんだ。 「ノバラさんの家に、行こう」  前のめりに生きる。そう思わせてくれる人に、やっと会えた。  その人と友達でいるためにも、私は行く。 「あれ?」  でも、待てよ。  私、ノバラさんが〝今〟住んでいる家……知らなくない?
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