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窓際のいちばん後ろ。それが、学校での私の席だ。
休み時間、私はひとり、校庭を見つめる。そして、ノバラさんのことを考えた。
ノバラさんは、家のことで悩んでいる。それは間違いない。悩んでいるとしたら……お父さんってことになる。
ノバラさんが今いっしょに住んでいるのは、お父さんだけだと思うから。
——前にカガリちゃんに〝ぼくに似てるね〟っていったことがあるんだ。でも、全然違う。……ぼくなんかと似てるだなんて、カガリちゃんに悪いこといっちゃったなあ、って後悔してるんだ。
ノバラさんはああいっていたけど、やっぱり私たちは似てると思う。
私……ノバラさんのちからになりたい。いやなことがあっても、私がそばにいるよって、安心してもらえるように、なにかをしたい。
そうだ。この間、指輪をもらったよね。私も何かノバラさんにプレゼントしたいな、と思っていたんだ。ノバラさんは、私があげた変な称号で喜んでくれていたけど。
でも、もっとちゃんとしたものをあげたい!
ロリータ服はどうかな、と思ったけれど、これはむりそう。
前にイザヨイさんに「ノバラさんにロリータ服をプレゼントしたい」ことを話したら、「カガリにはむりだよ」って、きっぱりいわれちゃった。どうやら、ジャンパースカートだけでも、よゆうで三万円を超えるものばかりみたい。私のお小遣いだけじゃ、とても足りないよ。
「はあ」
休み時間終了のチャイムが鳴り響くなかで、私はため息を吐いた。
うわあ、次の授業は、道徳かあ。私が一番きらいな授業だ。
プレゼントのことでも考えつつ、時間をつぶそう。
あっというまに次のチャイムが鳴り、担任の先生がドタバタと教室に入ってきた。二十代の男の先生。うちの学校の先生のなかで一番若くて、いつもやる気に満ち溢れている。
でも私は、この先生のことが大の苦手だった。
他のことを考えよう。ノバラさんのプレゼント、どうしようかな。
「はい。じゃあ、そういうわけで、今からグループに分かれて話し合いをするぞー」
ハッと、我に帰る。やばい、ネバーランドに行っていた。いつの間にか、かなり授業が進んでいるようだ。
黒板には「なぜ、ルールを守らないといけないのか」と書いてある。
他にも、「周りの人の迷惑にならなければ、ルールを破ってもいいのか」や「自分の考えとは違うルールでも、守らなくてはならないのか」などなど、メンドくさそうなことがずらずらと書いてある。
いったい教科書の何ページの内容なのか知らないけれど。
「里々原さん。机、くっつけよ」
視線を横にズラすと、隣の席の男の子・餅本くんが涼しげな顔で机を持っていた。
気づけばみんな、近くの席の子たちと四人グループを作って、すでに意見をかわしあっている。私はというと、当然クラスの残りもの。常に教室で浮いている私は、こういうとき、いつもあまるんだ。
でも、どうして餅本くんは、私と机をくっつけようとしているのかな。
ふと周りを見渡すと、近くのグループで、三人だけのところがあった。
「あそこ、まだひとり入れるじゃん。あそこに入れてもらえば」
餅本くんが「えっ」と声をあげた。
「先生に、里々原さんといっしょにやれって、いわれたんだけど」
なるほど、そういうこと。
「私は大丈夫。隣のグループに入れてもらいなよ。一番前の席の子、仲いいんでしょ」
「え。なんで、そんなこというの?」
「はい?」
突然、餅本くんは不機嫌になってしまった。私、変なこといったのかな。
気が利いた言葉だったはずだし、いい方にもトゲはなかったと思うんだけど。
「僕は、里々原さんとやれって先生にいわれたんだよ。そういうルールなんだ。里々原さんが勝手に変えていいもんじゃないよ」
「ええ……?」
「ほら。僕らもはやく机をくっつけよう。さっそく他のグループよりも、遅れてる」
「は、はあ」
ズズズ、と力なく机を引きずると、そのひょうしに消しゴムが床に落ちてしまった。
転がってったほうへ、あわてて追いかけると、大人の手がそれをひろってくれた。
消しゴムを受け取ると、先生はにこっと笑う。お手本のような笑顔だ。
「ありがとう、ございます」
「里々原。どうだ。話し合い、できてるか?」
優しい先生なんだ。めったに怒らないし、クラスのみんなの意見すべてに耳を傾けてくれる、熱意のある大人。
みんなに平等で、ひいきなんてしない、理想の先生。
優しいイザヨイさんと同じなはずなのに、どうしても好きになれないのはなんでなんだろう。
「里々原? 聞こえなかったか? 話し合い……」
「ああ、問題ないです」
「……そうか。なら、よかった」
何もいわなければ〝何もないことになる〟。
先生は、安心した顔をして、他のグループの机へと行ってしまった。
私が、先生を好きになれない理由が分かった。他の子とは、楽しそうに笑いあっているくせに、私と話すときだけは、私の目を見て、話してくれないからだ。
教室の黒板の上に、このクラスの学級目標が貼られている。
【みんなの個性で 五年一組の キャンバスを 描こう】
少しホコリをかぶったその貼り紙が、じっとりと私を見下ろしている。
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