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「皇帝萬歳、重臣千秋、風調雨順、国泰民安」
相馬が謳うように読み上げた。
「先生意味は?」
「皇帝萬歳のこの皇帝とは天皇を指す。天皇の世がいつまでも栄えることを祈っている。重臣とは国を司る人達で当時彼等の時代が長く反映すること願っている。雨風が穏やかで災害がないよう、そして国も民百姓の安全を祈願しているんだよ。中国から来たお坊さんだから天皇と彫らずに皇帝としたんだろうなあ。この辺が面白い」
頭を捻る雅恵を尻目に相馬はニヤニヤしている。
「ふ~ん。先生あのぼつぼつは何?」
「あれは乳とかいてチと言う」
雅恵より洪鐘に興味を持つ相馬が腹立たしかった。
「鐘の音を聴いてみたいな」
相馬が独り言のように溢した時だった。
「あっ」
雅恵が鐘に近寄る男に気が付いた。
「先生、もしかして」
その男は浴衣を端折り、鉢巻きをしている。足元は丘足袋を履いている。帯を襷に掛けて袂を絞った。
「鐘を突くんだよ多分」
相馬が興奮している。男は橦木を揺らした。二度引いて三度目を大きく引いた。そして打ち鳴らした。700年の時を超えた鐘の音が空気を震わす。次元 の境が交じり合う。混じり合う場所は危険である。もとに戻るときに異次元に引き摺り込まれてしまうことがある。男は一回だけ突いて弁天堂の中に消えた。雅恵と相馬は知らぬうちに抱擁し唇を重ねていた。鐘の音が静まると次元の境が元に戻った。二人は慌てて身体を離した。
「すまん、一瞬鐘の音と共に意識を失い雅恵を抱いていた。許してくれ、嘘じゃない」
相馬が慌てている。
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