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円覚寺は鎌倉五山で二番目の地位である。建長寺、円覚寺、寿福寺、浄智寺、浄明寺と続く。鎌倉に存在する五つの大きな禅刹である。正式名を瑞鹿山円覚興聖禅寺。
「立派な山門だねいつ見ても」
愛がスマホで写真を撮る。
「おばあちゃん、一緒に撮ろう」
「あたしはいいよ、魂が抜かれるよ」
「いいから」
山門をバックに写した。照れる雅恵も両手の人差し指を頬に当てて笑った。
「お前達、鎌倉五山の覚え方を教わったかい?」
「知らない、教えて」
「けんえんじゅじょうじょうきげんて覚えるんだよ。山ノ内に住んでてそれくらい知らないと恥ずかしいぞ」
二人は山門を潜る。山門は県の重要文化財だが国宝級である。山門とは三門とも書く。空、無想、無作の三解脱門で三門である。
「南無釈迦牟尼仏」
雅恵は山門で念仏を唱えた。昭和40年、4月7日だった。北鎌の歴史教師だった相馬哲也と二人でこの三門を潜った。翌日に控えた洪鐘祭の下見をしようと相馬から誘われたのである。その時に三門の話を教えてもらった。
「鎌倉五山を知ってるかな?」
「知りません」
「建長寺、円覚寺、寿福寺、浄智寺、浄明寺。雅恵は地元山ノ内出身だからあまり興味が湧かないのかもしれないね。先生は歴史が大好きだから、考えただけでその時代にタイムスリップしてしまうよ」
「本当に?」
雅恵は憧れの歴史教師相馬哲也を独り占めしている自分が心地よかった。このままずっとこの時間が続けばいいと感じていた。
「本当さ、私達が参加する洪鐘祭だって素晴らしい。こんな歴史的祭典に参加できることを光栄に思うよ先生は。雅恵はそうは思わないかい?」
60年振りの祭りのことより、相馬と二人の時を楽しんでいたい。そもそも相馬が参加すると聞いたから雅恵も手を上げたのである。それまで全く興味はなかった。
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