洪鐘(おおがね)でキス

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「愛、ユーチューブってたくさんの人が見るんだろう」 「そうよ。全世界の人が同時に見れるんだから。おばあちゃんの元カレも見ればいいね」 「元カレとかはしたない。そう言う言い方は止めなさい」 「だって元の彼氏だから元カレだもん」  弁天堂に上がる階段の下に来た。雅恵は階段を見上げて「ふーっ」と息を吐いた。 「行くよおばあちゃん」  愛が先に上り始めた。北鎌のスカートが風に揺れた。60年前の自分を重ねた。 「おばあちゃん、手摺に摑まってゆっくり上がって来な。あたし先に行くよ。お汁粉食べてる。おばあちゃんも食べる?」 「あたしはコーヒーだけでいいよ」  愛が階段を駆け上がる。スカートが翻り白い下着が見えた。 「こら愛、パンツが見えるよ。どうして短いスカートを穿くのかねえ」  愛には聞こえない。独り言に笑ってしまった。 「先生、初めてでしょ弁天堂は?さあ、階段駆け足で上がるよ、競争 、負けたらしっぺ」  雅恵が急な階段の下ではしゃいだ。しかし相馬の足取りを見て違和感が生じた。 「ああ、実はそうなんだ。参詣もしていないのに偉そうなこと言ってしまったな。実は先生膝が悪くて急な階段は苦手なんだ。暑き疲れてくると余計重くなるんだ。でもそんなこと言ってられないな、明日は本番だし上がらなければならない。予行演習だ」  相馬は右足から踏み出した。遅れる左足を揃えるとまた右足から登り始める。 「先生の足が悪いのはなんとなく気が付いていましたけどどうされたんですか?」  雅恵は躊躇いもなく原因を聞いた。 「ああ、見破られていたか。先生は5歳の時に終戦を長崎で迎えた。空襲で逃げる時に被弾したんだ。誰にも言うなよ」  相馬がズボンを捲り上げた。脹脛に火傷の痕が残っている。雅恵は驚いて黙ってしまった。
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