アルク公爵家の(優雅な)お茶会

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アルク公爵家の(優雅な)お茶会

 皆様、ごきげんよう。つい先日初対面の第一王子の発言で、一瞬異世界に飛ばされるような体験をした私こと、プルメリア・アルクです。まずは自己紹介からさせていただきます。  橙の瞳を持つ父と、青の瞳を持つ母の間に長女として生まれました。自己紹介で両親、しかも瞳の色から語り始めたのか疑問に思う方も多いでしょう。  これは我々が住む大陸の歴史が関係しています。    かつて世界には、海に住む「メール」と呼ばれる精霊の一族と、空に住む「シエル」と呼ばれる竜の一族、そして人間が手を取り合って穏やかに暮らしていました。  しかし「タムペット」と呼ばれる災いが彼らを襲い海は淀み、空は深い灰色に染まりその災いは数百年続きました。  長年の災いに苦しめられた二つの一族は、彼らの友人である人間を守りタムペットからも干渉されない新たな場所を雲と波で作り風を意味する「ルヴォン」と名づけました。  そして彼らはそこに生き残った僅かな人を住まわせ、守ることにしました。 人間を守るために、竜は少しずつ力を使い「加護」といった形で生活を守り続けることにしたそうです。    いまだに瞳の話まで辿り着かなく申し訳ないですわ。これでもだいぶ省略した方なんですの。大陸の歴史は今までに、何度も聞かされてきたのでどこまでも語れてしまうのです。本当、何回同じ話をしやがられるのかしらあの乳母め……。  本題に行きましょう。なぜだか詳しくは分からないのですが、彼らがとても愛していたと言われている赤を筆頭に赤、橙、黄、緑、青の順で瞳の色が尊ばれているのです。特に貴族の中ではその文化が顕著で瞳の色で家督を譲る順を決めたりする者も多いのだとか……。貴族の挨拶では両親の瞳の色を述べたり、初対面の方から親戚の瞳の色まで尋ねられたり、本当になんといったらいいのか……。    「プルメリア様、色々お考えが漏れております」  そうプルメリアに冷静にツッコミを入れたのは侍女のカモミール。  「だって瞳の色で優秀な人物かどうかなんてわかるわけないじゃない。外見ではなく内面を見て判断するべきだわ」  「革新的なご意見だと思いますが……。奥様とのお茶会の最中だということをお忘れなのでは……。」  そう、プルメリアが無言で考えているのは母親であるアイリスの前であるし、すでに目の前の紅茶は冷めきってしまっている。かなりの時間彼女は考え込んでいたのだ。  「私は気にしていないわよ、ミール。メリアが考え込んでいるのはいつものことだもの。それより私はほとんど表情が動いていないプルメリアの思考を完璧に読める、カモミール、あなたに感動しているわ」  驚いた。私あれだけ脳内で語っていたのに声にも、表情にすら出ていなかったのですね。    「それより、メリア。あなたが瞳の色云々について考えていたのは、どうして?何か思うところがあったの?先日王宮に行ったことが関係していて?」  そうでした。私が今まで以上に真剣に瞳の色について考えていたのは、あの第二王子のせいです。  「そうなんです。あの王子、赤の瞳ならばとてつもなく優秀なはずではないですか。  それなのに、人の顔見てしばらく固まったいただけでなく挙句の果てに、あのよく分からない発言。あのような方が王位継承権第一位なんて、この国の未来はお先真っ暗ですわ」  プルメリアの発言は王族への不敬罪で即刻投獄されてもおかしくないレベルである。  彼女がこのような意見を持ち、躊躇うことなく発言できるのは、父が瞳で後継ぎを決めるような現王の思想に共感していない事と、王国でたった一人しかいない公爵であるからだ。ちなみに母であるアイリスも数少ない侯爵家の出だ。そう、プルメリアはこの王国の中でも群を抜いて良い血筋の令嬢である。例えプルメリア自身は表情の変化が乏しく、脳内ではおしゃべりだが、実際は言葉数が少ないために、数多くの誤解を招きがちではあるが、間違いなく高位貴族の令嬢なのだ。    「そうね、第二王子のあの発言は本当に良く分からなかったわね。 それより太陽の国であるソレイユでお先真っ暗なんて縁起が悪いわ。もっと別の表現をしたほうがいいわよ」  皆様お気づきだろうか。アイリスも表現についての注意はしたが、プルメリアの王族への不敬発言は華麗にスルーしている。彼女もまた図太い神経の持ち主だった。さすが親子といったところか。     忠実な侍女カモミールは、安定の貴族らしからぬこれらの発言にこれ以上ツッコミを入れない事を決意した。彼女の長年の悩みは自分が使えている主人が公爵家の令嬢らしくない事だ。不吉だと言われる瞳を持つ自分を侍女として雇っていることもそのうちの一つである。だが結局貴族らしくなくても、己が仕える大切なお嬢様に変わらないのだと結論づけてしまうので、未だに解決への糸口は見つかっていない。見つける気がないといってしまってもいいレベルだ。  そう彼女は間違いなく主人プルメリアに甘く、尚且つ、いわゆる一般的に激重感情と言われるものを抱えている。タチの悪いことにカモミールは無自覚なのだが……。    マイペースさゆえの独特な空気感の中、カモミールは口を開いた。    「お二人とも私は、何か嫌な予感が——」  プルメリアは絶望した。カモミールの感の鋭さには何度も助けられているし、信頼もしている。それらが意味するのは、これから面倒事が起きる未来が確定したということだ。プルメリアは嫌な予感とやらに適切に対処するために、詳しく話を聞くことにした。  「嫌な予感とは、具体的にはどのようなこと?私の身に起きること?」  「プルメリアお嬢様に招かれざるお客様が、いらっしゃるかと」  「事前の連絡なしに?」  「はい。お呼びでないお客様ですので。総合的に見ても嫌な方といって    良いかと」  続きを話すように促すよりも先に、珍しく家令が慌てながら衝撃の言葉を告げた。     「第二王子殿下がいらっしゃいました——」    うん、間違いなく招いていない人物がやってきてしまったようです——                              
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