転生してはや六年、俺は衝撃の事実を知りました

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転生してはや六年、俺は衝撃の事実を知りました

 「ねぇ、俺知らなかったんだけど。なんで教えてくれなかったの?」  俺は、かなり怒っていた。目の前には顔を真っ青にした教育係がいる。自他ともに認める温厚な俺が、信じられないほどの剣幕で怒鳴っているのだから当然とも言えるのだが。    今日俺は、昨日父親から『引き籠もっているなんて許さない。友達作らんかい!』令が出されたために、渋々針子たちを呼んで服を仕立ててもらっていた。今ある服で十分だと思っていたのだが、乳母やメイドたちが許してくれなかったのだ。最低でも十着は仕立てなくてはならないらしい。  トマに泣きついたところ、『一国の王子にしては、衣裳部屋の中身が貧弱すぎます。下級貴族より少ないんですから、これを機に諦めて服を作ってください。仕えてる主人がみすぼらしい格好をしているなんて、侍従である私が恥ずかしいです』とすげなく返されてしまった。前世は服装など気にせず、適当にパーカー数枚とジーンズで過ごしていた俺には、正気の沙汰とは思えなかったけれども、従う他なかったので大人しくしていた。  やっとの思いで採寸地獄から脱け出し、休憩をしていた所に教育係が来たのだ。なんでもマナーのおさらいと、挨拶の練習のためにトマが呼んだらしい  『なんだかんだ毒舌を吐きながらも俺のことを心配してくれているのか、いや、アイツなら採寸で疲れている俺をさらに苦しめたいだけだろうな』などと思いつつも、マナーの確認はしたかったのですぐさま教育係の元へ向かった。  滞りなくマナーの確認は進み、挨拶の練習に差し掛かった時に事件は起きた。  「初めまして、第二王子のフラム・ド・ソレイユです。僕もお会いできて嬉しいです」と教育係の言った通り繰り返そうとして、違和感を覚えた。 彼は今、何て言った?俺が第二王子?兄がいるなんて聞いたこともなかった。 どうして知らなかったのか?——誰も兄の存在を教えてくれなかったから。  そして、話は冒頭に戻る。つまり俺は兄の存在を知らなかったので、怒っているのだ。兄がいるならもっと早くに言って欲しかった。それならば寂しい思いなどせずに済んだのに。怒りと同時に悲しみも込み上げてくる。教育係だけでなく、信頼している乳母のヘレンもトマも何も教えてくれなかったのだ。  「なんの騒ぎですか、フラム様は何に怒ってらしゃるんです?」  部屋にやって来たのは、天使もとい外見詐欺の悪魔だった。淡々とした喋り方に、クールな表情、通常運転のトマがそこに居た。だから、俺もいつも通り、まるで献立をきくかのように彼に尋ねた。  「ねえ、トマ。俺に兄さんがいるのって本当?トマは知っていたの?俺は知らなかったんだけど」  トマは少し驚いた表情をしたが、教育係をサッと追い出して、微笑んで言った。  「とりあえず、お茶にしましょう。私が分かる範囲でお答えするので」      「本日の紅茶はダージリンの中でも、オータムナルと呼ばれるものでファーストフラッシュやセカンドフラッシュと比べると甘みのある茶葉です。ストレートがおすすめですが、ミルクを入れても美味しくいただけます。お供としてクリームをたっぷり添えたパウンドケーキとクッキーをご用意させていただきました」  紅茶のいい香りを漂わせながら、トマはいつもと変わらず流暢に紅茶の説明をしてくれる。丁寧な説明には感心して、ケーキと紅茶を楽しむのが日常だった。が、今は質問に答えてもらうことが、何よりの優先事項。フラムは用意された物には手をつけることなく質問の雨を降らそうとする。よりも先に、トルマリンが簡潔にフラムに告げた。  「質問があるのは分かるのですが、冷める前に紅茶を飲んでください」  紅茶を愛する彼らしい言い分だったので、一口飲んでみる。特有の香りと少しの渋み。温かさで心が落ち着いていくのをフラムは感じた。そこからフラムはパウンドケーキを半分ほど食べすすめ、クッキーを数枚口に放り込んだ。そして、一度深呼吸してからトルマリンに尋ねた。  「俺に兄さんがいるって本当? トマは知っていたの? 会いたいって言ったら、会うことってできる? できれば今すぐにでも会いたいんだけど」 トマはあっさりと質問に答えた。  「フラム様にはかつてお兄様がいらっしゃったのは事実です。正確には、男女の双子だったそうですが、お兄様の方は生まれてすぐに亡くなったそうです。ですので、フラム様にはお姉様が一人いらっしゃいますね。なぜ私がお兄様の存在をお話ししなかったかといえば、第一王子殿下について嬉々として話すような内容ではないからです。フラム様でしたら、喜び勇んで説明もろくに聞かずに、このルヴァン宮を抜け出して城中を駆け回りそうですし」  凄まじい量の説明を一息もつかずに、トルマリンは言い切った。  「兄上の事情は分かった。なら、姉上のことはどうして教えてくれなかったの?」  「わが国において、双子の王族が生まれた前例はほとんどありません。数百年ほど前に生まれた際には、国がかなり栄えたそうです。ですので、陛下は期待されていたのでしょう。しかし、王子殿下が亡くなってしまったために、期待を裏切られたように感じられたのではないかと。  また陛下は王女殿下の瞳の色を不気味だとおっしゃってエクリプス宮に軟禁していられるとの噂もあります。真実かはわかりませんが、ご家族であってもお会いするのは難しいと思います」  フラムは瞳の色で差別があることは知識としては、知っていた。だが、まさか己の姉がその対象かもしれないとは想像もできなかった。血のつながった子供のはずなのに——他にも沸いた疑問をフラムはトルマリンにぶつけた。  「姉上の瞳の色は何色なの?名前は、年齢は?生まれた時から軟禁されているの?エクリプス宮はどこにあるの?」  「王女殿下の瞳の色は公にはされていないのですが、紫色かと推測されます。 お名前は確か、エリカですね。年齢はフラム様の三つ上、九歳ですね。宮から出たことはおそらくないかと。エクリプス宮の場所は私では存じかねます」  「瞳の色の差別はそんなに深刻なものだったなんて知らなかった。瞳の色が紫であることで何か問題なの?」  「強いて言うなら、魔力が少ないことぐらいですかね。そもそも日常生活で魔力のみを使って生活する者はほとんどいませんが」  え……ここって魔力とかあるファンタジーな世界なの?  
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