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今後の学費や生活費の援助など期待できない上、早く親の呪縛から逃れたい陽葵は就職を希望したが、担任は大学進学を勧めた。ならば短大へといったが、それも4年制にしたほうがいいともアドバイスをする。2年の差は大きい、陽葵なら難関国立大も無理ではない、ここで踏ん張ればこの先のもっと長い人生、勝ち組になれるからと説得され指南に従う。
大学受験すら金がかかる、その金も親に頼めない陽葵は担任が勧めた難関と言われる国立大学のみに絞り背水の陣で臨む、幸い学校のサポートは手厚く合格することができた。
さらに学歴のお陰かトップクラスと言える会社に入れたのは本当に担任の教えの通りだった、ここまで頑張れた自分を褒めたい──できれば大学院に進み勉強を続けたい希望はあったが、そんなことを言える状況ではなかった。
家族とは会わずに済んで5年余り、家族は陽葵がどこの大学に進んだすら知らないだろう──いやそれは学校に聞けば判らなくもないだろうが、しかしどこに就職し、横浜に新居を構えたことは知らないはず。
育ててもらった恩はある、少なくとも高校までは出してもらえたのだ、礼はなくてはならない。時折児童虐待のニュースを見聞きする度、もしかしたら自分もそうなっていたのではと思えば、早々に寮がある学校へ放り出してくれた判断は今では感謝している。
それでも。突然奪われた愛情は戻ることはなく、受けた苦労や悲しみは消えることはない。
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