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6.待たれている男
「なーんで僕は仕事してるんですかねー」
「言うなよ、仕方ないだろ」
遠い目をしたリクが皿洗いをしながら不満気に呟く。
それを隣で聞いていたリクより年上の仕事仲間は、嘆くリクをなだめながら皿を洗う。
「使用人参加のパーティーっつったって、使用人全員パーティーに出席しちまったら世話する者が居なくなるからな。何人かは仕事に回るのは仕方ないさ」
リクも頭では分かっているつもりだ。だが、理解しているのと現実を受け入れるのとでは違う。
パーティー前日にまさかの裏方を告げられたリク。
あれほど楽しみにして夢にまで見ていた料理を突然目の前から奪われた気分なのだ。
「だからって何で僕……」
裏方に回る使用人はくじ引きで選ばれたらしいが、倍率はとてつもなく高い。
そんな貴重なくじ引きにまさか当たってしまうとは何たる不運か。
美味しい料理が食べたかった。それに……
「……会いたかったな」
深い眠りについていた頃しか知らない彼。元気になって笑う姿を、一目でもいいから見たかった。
諦めかけていた人生を取り戻し、輝く彼を、一目でも。
「まぁまぁ、後で残りもん食わしてやっから」
不満を漏らしながらも手際よく汚れ物を片付けていくリク。共に皿洗いをする男はリクより少し年上で背も高い。短い黒髪は刈り上げられており、体格の良さからおそらく日頃は護衛をしているのだろうとリクは推測した。そんな男はリクの手際の良さに感心しながら嘆くリクを慰める。
「あら甘いわね。残り物なんかより今食べましょうよ」
「えっ?」
皿を洗う二人の背後で、若い女性の勝ち誇ったような声が上がった。
振り向くとそこには大皿を持つ侍女がさぁ拝めと言わんばかりに胸を張って立っていた。
「それ……どうしたんですか?」
彼女が持つ大皿には様々な料理が乗っている。盛り付けは崩れていたが、肉や魚、新鮮なサラダまであった。
「どうせ殆ど残るんだもの、今食べたってバチは当たらないでしょ。だからこっそり持ってきちゃった。みんなで食べようよ」
「流石です愛してます!」
「アンタの愛は軽いわね」
今日名前を知ったばかりの彼らが長年の親友のように仲が良いのは、同じめぐり合わせの仲だからだろう。
「よく持って来れたな」
「半分以上空になった大皿ならさげても怒られないの。それにこっそり自分が食べたい料理も乗せてくるのよ」
「僕も行ってきます!」
「待てリク。俺一人じゃ皿洗いが回らないからリクが残ってくれ。代わりに俺が取りに行く」
「じゃあデザート取ってきてください。焼き菓子と水菓子と果物全部ですからね!」
「ハードル高えなっ!」
「デザートなら西のバルコニーの所が下げ頃よ」
パーティーから残された者同士で妙な一体感が生まれた彼らは、戦友のごとく絆を深める。
何だかんだと忙しなくも彼らなりにパーティーを楽しんで、夜が更けていく。
ちゃっかりぶどう酒の瓶まで持ち帰ってきた男のおかげで、最後に皆で乾杯をした。
パーティーの中心で、未だ一人を待ち続ける男が居るなど知る由もなく……
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