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今までずっと一般人として過ごしていて、タワマン奥様のあれこれなんて、まったく考えた事もなかった。
テレビドラマでタワマン奥様を扱った作品を見た事はあったけど、ドラマだし誇張されてるんだろうな、とは思っていた。
けど、よーく考えてみると女性が集まれば、何やかやあるのは当たり前だ。
グループになればリーダーになる人が現れるし、その人の機嫌を損ねないようにしようと動く人もいる。
事なかれ主義な人は大人しくしているだろうけれど、リーダーの命令で動くかもしれない。
そのパーティーに参加する奥様たちが、果たして何名なのかは分からない。
けれど恐らく上層階にいる人たちなんだろうなぁ……と思うと、色々面倒だ。
「さっきも言いましたけど、忙しくしててお誘いがあっても断ってたので、気を悪くさせちゃった感じでしょうかねぇ」
「……多分そんな感じだと思います。リーダータイプの方が杉川さんと言って、三十四階に住まわれています。結構プライドの高いタイプで、ペントハウスにお住まいの久賀城さんと仲良くしたい……と思っていたみたいなんですが、誘っても断られて……という感じで」
「あー……」
気持ちは分かるけど、私は悪くない……と言いたい。
だって忙しかったの、本当だしねぇ。
「パブリックスペースで奥さんたちに会うと、挨拶はしてくれるんですけどね」
「まぁ、挨拶程度はするでしょう。大人ですし」
「確かに!」
これで無視してたら、学生レベルだ。
タワマンに住むならある程度の収入はある訳で、それに伴って頭のいい人……というのが前提になる。
夫の評判を落とすような女性は、恐らく結婚前の段階で選ばれていないだろう。
だからここで「あまり良くなく思っている」と言われても、思っているほど酷い感じではない……と思いたい。
「ま、第一子も生まれたし、今後お誘いがあったら子供の様子を見ながら参加してみます」
「そうですね」
あとは世間話をして、それぞれ家に帰った。
**
「ふぅーん、そんな事あったんだ」
食後、キュウリの浅漬けをポリポリ囓りながら、正樹が頷く。
「まー、確かに俺ら、マンション内の交流とかまったくしてなかったもんな。〝忙しい〟が理由なのは本当だし」
慎也はキッチンで旬の桃を剥いてくれている。
なお、彼は帰宅と同時に「俊希ちゃんただいまぁ~♡」と甲高い声を上げ、我が子に突進していく溺愛パパになっている。
正樹はすっかり俊希用の野菜スープ作り係になり、日々美味しい野菜スープのために努力を欠かさない。
不思議な事にそれまで料理が苦手だったのも、〝俊希のため〟と目的ができると頑張れるようになったみたいだ。
「だから次にお誘いがあったら、参加してみるつもり」
「僕らも予定があったら同席するよ。優美ちゃんだけだと心配だし」
「ありがと。多少なんかされても泣き寝入りはしないけどね」
「ははっ、優美らしい。ま、うまくやっていけるよう、ちょっと様子見だな」
「そうだねー」
頷いた時、慎也が甲高い声を出した。
「はい俊希ちゃーん、桃でちゅよ~♡」
俊希用のプラスチックのお皿に、食べやすい大きさにカットした桃を出し、「どうぞ!」と子供用フォークを渡す。
「パッパ!」
「はい、パパだねぇ~」
でれっとした慎也は、そのまま俊希に桃を食べさせ始める。
私は立ちあがって、キッチン台の上にある大人たちの桃を持ってきた。
「慎也、先に食べるよ」
「ん」
「僕は優美ちゃんの桃がいいなぁ……」
「ぶっふ!」
水を飲もうとした私は正樹の下ネタに咳き込んだ。
「正樹さん、あのですねぇ……」
「もうエッチ解禁になったんだし、いいじゃん。不愉快だって言うなら控えるけどさ」
「不愉快じゃないけど……」
言いながら、私は慎也に桃を食べさせられている俊希をチラッと見る。
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