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「俊希が言葉を理解するようになったあとは絶対にやめてね? 理解してないと思っていても、親の言葉、行動を見て真似るんだから」
「うん、分かってるよ。ごめん」
私の従姉は宴会が大好きな人だ。
家で缶ビールを飲んでいるからか、甥っ子が缶ビールを見ると500ml缶を両手で持って、呷るポーズをとったと聞いて、当時は爆笑した。
けど、我が事になるとへたな事はできないなぁ……、と思う。
従姉の話だから笑い話にできたけど、それを友人の前で披露されて、従姉はえらい恥ずかしかったんだとか。
「優美ちゃん、お詫びに、あーん」
正樹がフォークで桃を刺して、私に差しだしてくる。
「うむ。桃で手打ちにしてしんぜよう」
私はそう言って大きく口を開き、彼から桃を食べさせてもらう。
「んまっ」
みずみずしくてジューシーな甘さに幸せな顔になり、モッチャモッチャと桃を頬張る。
「旬の物って一年に一回しか会えないから、沢山食べたいよねぇ」
私の顔を見て、ニコニコした正樹が言う。
「そうそう。果物のお取り寄せを見てると、春と共に好きな果物がどんどん出てきて本領発揮! って感じだよね。冬はりんごとミカンしかない印象かなぁ……。いや、りんごとミカンが悪いっていうんじゃないし、ミカンでもゼリーみたいにちゅるんとした品種とかあって、あれは大好きだけど。りんごも蜜のあるやつ大好き」
気がつけば果物について熱弁を振るっている。
「そういえば、同棲して初めての冬に、白いイチゴを出したら感動してたっけ」
「あぁ、あはは。そーいやあったね。文香と白いイチゴのパフェは食べた事はあるんだ。でも化粧箱に入ったイチゴが、整然と並んでるのを見ると感動するよね」
お高いフルーツは並び方も行儀がいい。
「正樹が買ってくれる果物は、何でもお高級だもんなぁ」
なにせ行きつけの果物屋が銀座にあるっていうから、ただひたすら「凄いなぁ……」としか感想がないんだけど。
二人と暮らすようになって、果物に対する感覚も大分バグってきたけど、もう受け入れるようにしている。
「慎也、はい。あーん」
そうこう話しているうちに桃を食べ終えた私は、俊希に食べさせている慎也に桃を食べさせる。
「ん、あんがと」
口を開いた慎也ははぷ、と桃を口に入れ、私を見て嬉しそうに目を細める。
う……。
食べさせてるだけなんだけど、こういう顔をされるとちょっと、母性が疼いてしまう。
独身の頃は「自分一人で何でもできるように」と思っていたけど、二人に出会って誰かを信じて甘える事を学んだ。
さらに俊希が生まれて、誰かを包んで守り、育んでいく気持ちも大きくなった。
美味しい物を食べても、まず俊希に分けてあげたくなる。
外で買い物をしていても、つい目が俊希のお土産を探す。
変わっていく自分に驚きつつ、何だかんだ変化を楽しんでいる。
だからなのか、忙しくしている二人を甘えさせるのも好きになっていた。
浜崎くんと付き合っていた頃にも、「面倒を見てあげよう」っていう気持ちはあった。
けど、あれと今の保護欲とはまったく別物だ。
「ねぇ、このマンションを買った時って、引っ越し蕎麦みたいな事ってしなかったの?」
尋ねると、正樹が素っ頓狂な声を上げて笑った。
「引っ越し蕎麦なんて、随分古風だねぇ! まぁ、やってる人はいるだろうけど」
「あ、そっか。やらないか。確かに古いよね、きっと」
イメージで言ってしまったので、現実とズレはあるんだろう。
「あれって、年越し蕎麦とニュアンスは似てるやつでしょ? 『細く長く、末永くお付き合いをお願いします』みたいな。半分ダジャレって言ったらそれまでのやつ」
「あ! そうなんだ!」
正樹に教えられ、私は声を上げる。
「まぁ、今は蕎麦を配られても……って所は多いだろうから、お菓子が多いだろうな。ごく簡単になら、タオルとかスポンジ、洗剤系とか。あぁ、蕎麦でも乾麺はアリか」
「あー。タオルは分からないけど、消耗品は助かるわ」
最後の桃を慎也に食べさせ、私はうんうん頷きながらお皿を持ってキッチンに向かう。
俊希に最後の一口を食べさえ終えた慎也は、用意してあったおしぼりで彼の口元を拭く。
手づかみの王様になってるので、手もしっかり拭く。
「コンシェルジュと階下の二戸に挨拶してギフトを渡して、それで終わりだったかなぁ」
「そうなんだ。その時、何か言われた?」
「別に。優美ちゃんが言ってた奥さんは、多分入れ替わったあとの人じゃないかな。二戸あって、片方は年嵩のご夫婦が住んでるけど、サブの家らしくてあんまりいないんだ。で、もう片方も、もともとは芸能関係の人が住んでたっぽくて、いるんだか分からない感じのまま、いつの間にか引っ越したね」
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