タワマン事件簿

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「それで、夜は家族と過ごすとして、昼間に体が空いてる奥様っていうのは経営者の妻とか、限られたタイプの人になるんじゃないかな?」 「あー、なるほど……」  腕の中で、俊希は私のおっぱいを弄りながらウトウトしている。 「文香ちゃんもそうなるんじゃない?」  確かに、文香は基本的に投資やって、依頼があったら原稿を書いてる。  化粧品のほうも〝趣味として〟使い比べて情報発信をして……ってやってる。  お金はある訳だし、遊ぼうと思えばいつでも遊べる。  とはいえ、私も彼女も絶賛育児中だ。  文香は私に色々話を聞いてきて、何かと生活スタイルを参考にしている。  いやらしい話だけど、お金を使えばシッターさんも家政婦さんも雇えてしまえるし、母親の負担は減る。  その分、私と文香はたまにの息抜きで、シッターさんに子供を預けてちょっとだけお茶……とか、楽をさせてもらっていた。  このマンションの奥様たちも、似たような感じで過ごしてるのかな。 「でも、文香はマンションの住人とは、まったく交流してないって言ってたかな」 「彼女なら、自分から進んで交流はしなさそうだな」  慎也が言って小さく笑い、私に抱かれている俊希を示して唇の前に指を立てた。 「お」  卒乳はしたけどおっぱいは大好きな俊希は、いつの間にかスヤリと眠ったみたいだ。  立ちあがって彼をベビーベッドに寝かせ、私は伸びをする。 「俊希も男だなぁ。おっぱい触って気持ちを落ち着かせるとか」  慎也がボソッと呟き、私はクワッと目を見開いて彼を睨む。 「ちょっとやめてよ。こういうのは女の子でも同じなの。お前らと一緒にすんな」  ドスッとソファに座ると、隣に座っていた正樹がスライディングで私の膝に頭をのせてきた。 「優美ちゃん甘えたい~」 「はいはい。よしよしよし」  私は犬にでもするように、正樹のお腹をワシャワシャ撫でる。 「正樹、ずるい。俺も」  慎也が向かいのソファから近寄ってくるので、私はニヤリと笑って意趣返しをした。 「正樹の事はワンチャン風に可愛がってるから、慎也はネコチャン風に可愛がってあげようか?」 「え? 猫ってどうだったっけ?」 「お尻ポンポン」  言われて、ネコチャンがお尻を叩かれて、気持ちよさそうに尻尾ピーンをしている動画を思いだした慎也は笑み崩れた。 **  その数週間後、忘れていた頃に〝招待状〟が届いた。 「おやおやまあまあ」 「マジか。モノホンか」  文香が遊びに来ていた時だったので、二人して封筒を開けてみる事にした。  ちなみにレターセットはさすがタワマンの奥様という感じで、事務作業に使うようなのではなく、光沢のある綺麗な物だ。  手紙を開けようとして、私は文香に尋ねる。 「文香ってさ、オープナーとかペーパーナイフ使う?」 「ああ、愛用してるのはあるけど」  そう言って彼女が口にしたブランドは、泣く子も黙るハイブランドだ。 「うちにもあるんだけどさ、ついついハサミ使っちゃうよね……」  言いながら私は引き出しからハサミを出し、封筒の端っこを慎重に切る。 「こうやって切って〝損なう〟事とか、もしかしたら中身も切れちゃう事を考えると、ペーパーナイフが一番いいんだろうね」 「私、出版社からファンレターを転送してもらう事あるけど、大体封筒の上をオープナーで開いた状態で送られてくるよ」 「そっかー」  そうだろうな、と思いつつも、慣れ親しんだ使い方は体から消えてくれない。  調理器具を買うのが趣味になった正樹が、楽しそうにピーラーでキャベツの千切りをしているのを見ても、私はつい包丁でやってしまう。そんな感じ。  そんな会話をしつつ〝招待状〟を開くと、手書きの綺麗な文字で〝パーティー〟への招待が書かれてある。  特に個人的な連絡はなく、何月何日に三十階にあるパブリックスペースでパーティーを開くので、どうぞ来てください。との事だ。  なお、宛てられたのは私だけれど、勿論、慎也も正樹も、なんなら友達も連れて来ていいらしい。 「ふーん」  手紙を覗き込み、文香が大きな「ふーん」を言う。 「私、行ってもいい?」
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