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「世の中、そんな分かりやすい訳じゃないって分かってるでしょ? 色白黒髪、薄化粧で眼鏡を掛けてる子が、必ずしも清純な訳じゃない。こないだ、ピンクの髪の女性が白杖の人を先導していたのを見たよ。その時すんごく『世の中、見た目じゃないなぁ』って思った」
「そうだね」
人は多面的だと分かっていた。
けど、好意的な雰囲気で話しかけられると、「この人はいい人だ」って思ってしまいたくなる自分がいる。
「優美は性善説の人だから、ある意味仕方ない」
慎也が言い、私は「んー」と何とも言えない声をだす。
この流れで言われると、「悪人の見分けがつかない甘ちゃん」と言われている気がする。
……いや、その通りなんだろうけど。
「私を見てよ。猫被り続けて、浜崎と結婚しかけた女だよ」
五十嵐さんが大爆発必至の自虐を言う。
「あっははは! ここにすっごい例がいた!」
それを、空気を読まない正樹が思いっきり笑い飛ばしたからいいものの、へたしたら大事故だったぞ……。
いや、気を遣ってくれてすみません。あざっす。
ちなみに和人くんは会話は聞いているものの、例によって子供たちの相手をしてくれている。すんません。
「俺、思うけど、杉川さんだったら、奥原さんのそういう面を察していたのかな。そこまで彼女を高く買うつもりはないけど、経営者だろ? ある程度人を見る目はあってもおかしくない気がする。その上で深く関わらず、放置していたと考えるのが違和感ないっていうか……」
慎也が言い、私たちは「ああー」と頷く。
「でさ、何だかんだで途中にしちゃってたけど、五十嵐さん、他にさやかの情報はないの?」
文香に尋ねられ、彼女はハッとしてスマホを見る。
チラッと見た限り、スクロールしているのはメッセージアプリのめっちゃ長い文面だ。
「ごめん、雑談が多いから必要な情報が……」
うん、なんか察する。
そのあと彼女はメッセージを見て、要点を纏めようとしていた。
「……要するに、売り上げガンガン上げてた売れっ子で、客やママからの覚えは良かったみたい。でも野心が透けて見える感じで、営業と媚びの合間がギリギリだったとか、〝おねだり〟が結構激しかったとか……」
そこまで言って、五十嵐さんはざっくり纏めた。
「要するに、『私って控えめなんです。お客様が一番です』っていう表向き品の良さをキープしつつ、やってる事はえげつなかったタイプ」
「分かりやすい」
文香が頷いた。
「後輩にもきちんと指導はしていたみたいだけど、何せ自分がガンガンいくタイプだから、敵は多かったみたい」
正樹が何度か頷いてから言った。
「でも仕事なら、ある意味正解なんでない? 全員ライバルな訳だから『おてて繋いで皆で仲良く売り上げナンバーワン』なんてできないでしょ。彼女の肩を持つ訳じゃないけど、仲良しごっこをしてたら逆に食われる世界だからね。『周りは全員敵、慣れ合わない』を貫いたら、売れるのは当然だと思うよ」
「確かに」
納得して私は頷いた。
そして思いついた事を言う。
「なら、さやかさん自身が凄く稼いでいて、ブランド物も自分の勲章な訳だよね? 実業家と結婚して、その男性が今どうしているかは置いておいて、頑張って稼いだお金で買った物はいずれも大切だと思う。……なのに、強盗が入って、何を盗られたかは聞かなかったけど、金目の物を盗られて、警察に言わないのは……。んー……」
「それも嘘っぽいな」
文香が一刀両断し、全員頷く。
「嘘だとしたら、なぜ嘘をつく必要があるか」
私は言いながら、ルーズリーフに書いて『?』をつける。
「注目を集めたかった?」
五十嵐さんが言い、慎也が続ける。
「同情を買いたかった」
私は頷きながら、ルーズリーフに書いていく。
「なぜ? 誰に向けて?」
私は『?』をグルリとペンで強調する。
「自分は被害者だと強調したかった。……自分以外の誰かが加害者だと言いたかった?」
ボールペンのお尻で顎をトントンしながら呟くと、正樹が「それだ」と言った。
「やっぱり奥原さんって、何か後ろめたい事をしてるんじゃない? ホラ、サスペンスドラマでも、被害者として途中退場した奴が、実は黒幕だった……ってよくあるじゃん」
「確かにそれはあるな」
慎也が頷いたあと、文香が言った。
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