タワマン事件簿

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「言うと思った」  思った通りの文香の反応に、私は笑い崩れる。 「最近面白い事がなくてさぁ」 「私の人生はエンタメか!」  突っ込みを入れたあと、私はもう一度〝招待状〟を読んでから封筒に戻す。 「ま、次は慎也と正樹も行くって言ってたし、どうなるか見物だね」 「あんたはさぁ、なんか知らないけど色々巻き込まれるよねぇ……。いや、久賀城の社長と、副社長夫婦と三人で住んでるっていったら、下世話な想像をして知りたがる人は多いんだろうけど」 「それを面白がる友人がいるのは、ありがたい事です」  ニヤニヤ笑って両手を合わせると、文香が爆笑する。 「あんたも、何でも楽しむ性格してるから好きだよ」  私たちは肩を組み、ぐっとサムズアップする。  しばらく笑ったあと、私はソファの上で胡座をかいた。 「ま、喧嘩売られると決まった訳じゃないから、何かが起こるまでは純粋にパーティーを楽しみにいこうか。タワマン奥様の交流会ってちょっとは興味あったし、意外と何も起こらず終わるかもしれないしね」 「そうだね。っていうか、着る服の相談しない? あと、書いてないけど、多少の手土産みたいなのはあったほうがいいでしょ」 「あっ、そうだね」  私は文香と当日どんな服装をしていくか相談したあと、タワマン奥様にウケの良さそうな手土産をネットで物色し始めた。  パーティーは土曜日に行われた。  開始時刻の十分前に三十階にあるパブリックスペースに向かったけれど、その時にはもうすでに十人ぐらいが集まってシャンパン片手に談笑していた。  会場の準備は業者の人がやってくれたらしく、テーブルの上には綺麗にアレンジメントされた花まである。  なお、安くはない会費制で、その金額もさすがタワマン奥様という値段だった。  そしてその会費を払うのは電子マネーだというのだから、今っぽいなぁ、と思う。 「どうもー、改めまして初めまして。久賀城優美です」  大きな声でハキハキと挨拶をして会場に入ると、その堂々とした登場が良かったのか、全員笑顔で迎えてくれた。  私はライトグレーのノースリーブオールインワンを着て、ウエストで黒いベルトを締めている。  身長があるから、こういう時は逆にパンツスタイルのほうが女子ウケが良かったりする。 「久賀城さん、改めてお話するのは初めてですね。ようこそ! 私は幹事をさせて頂いています、三十四階の杉川と申します。美香って呼んでくださいね」  さやかさんが言っていた例の美香さんは、三十半ばから後半ぐらいっぽいけれど、十分二十代にも見える美しさをキープしている。  スラッとしたモデル体型で、ゆるっとしたパーマを掛けたロングヘアをハーフアップにしている。  ベージュのワンピースは浅いオフショルダーのIラインで、品のいい色気があった。 「じゃあ、私は優美でお願いします。こっちが夫の慎也。その兄の正樹です。で、息子の俊希。連れて来ちゃってすみません」  家族を紹介すると、美香さんはちょっと高い声で「初めまして」と挨拶をする。  慎也たちはスーツではないものの、シャツにジャケットは着ている。  あらかじめ文香から、「ドレスコードでいえばカジュアルエレガンスぐらい」と言われていたので、全員ばっちりだ。 「ご厚意に甘えて、友人も連れてきてしまいました」  笑顔であとから来た岡川家を紹介すると、文香、和人くんが挨拶をする。こちらも子連れだ。 「初めまして。岡川文香です。こちらは夫の和人と息子の大輝」  彼女はパキッとしたコバルトブルーの、ノースリーブIラインワンピースだ。  和人くんはバンドカラーのシャツに、ジャケットというスタイルだ。  見目麗しいのがズラッと並んだからか、奥様たちは目をハートにして(主に男性陣を)見ている。  チラッと会場内を見ると、奥のほうにさやかさんがいたので軽く会釈をした。  彼女はやや美香さんたちに遠慮した様子だけれど、一応会釈を返してくれる。  パーティー会場は二十畳ぐらいの空間で、窓から三十階の眺めを見下ろせる。  中央にはクロスの掛かった大きなテーブルがあり、その上にはオードブルやお寿司、サラダなど、映える料理が用意されている。  会場内にはキッチンがあって、そこでは招かれた料理人がアシスタントと一緒にメインになる料理やパスタなども作っている最中だった。  飲み物担当らしい奥様は、業者が持ってきたワインやシャンパンの説明をされている。  勿論ソフトドリンクもあるけれど、見るからにお高そうなジュースやお茶だ。
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