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 そんなに詰めてるつもりないけど。  優斗くんはなんども首や肩を回して落ち着かない。着替えに戻るなら集中して宿題を進めておきたいのに。  ゴロゴロと雷の音が聞こえた。窓に目をやると雲がたちこめ暗くなっていた。気が付けば手元も暗い。  優斗くんが壁のスイッチを点けようと立ち上がったとき、ピカッと稲妻が光り、ドーンと雷が落ちた。  とっさに優斗くんのズボンを握りしめた。 「大丈夫だよ」  優斗くんは浮かしかけた腰を下ろすと、わたしの背中に手を回した。  ゴロゴロと雷の余韻が残り、雨がザアッと降り出した。  ガラス窓を叩く雨粒を見つめていると、優斗くんがぐっと力をこめた。顔が近づいてくる。 「待っ……」言うより早く唇が重ねられる。顔を背けても彼の口が追ってくる。  もういちど口を塞がれ、それから体に手が伸びてきた。 「嫌!」  彼の胸を両手で思いきり突き飛ばした。  優斗くんが尻餅を突いて、そのあいだに距離をとった。 「嫌だよ、こんなの」声が震えていた。それに気付くと涙が出た。 「ごめん」  優斗くんはうつむいたまま言った。 「でも、奈緒が好きなんだ」  いつかはこういうことも、と考えないわけではなかった。だからってこんな……。  奈緒は涙を抑えようと顔を覆う。  その肩に置こうとした優斗の手が振り払われる。  もうそんな気はなかったが、いまは触れてほしくないという奈緒の感情を優斗は理解できなかった。 「こんなこと、しないで」  奈緒の絞り出した声に、優斗はぽつりと言う。 「俺の気持ちはどうなるんだよ」  奈緒はいたたまれなくなった。  広げていたプリントを鷲掴みにトートバッグに突っ込むと部屋を飛び出した。 「待ってよ」  追いすがろうとする優斗の前でバッグを振る。ただ空を切っただけでも、優斗の動きを止めることになった。  外は激しい雨が降っていた。
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