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 麗奈はいっそう注目を集めるようになった。  転校してきたときからその美しい容姿が話題になっていたのに、それから一週間後の期末試験で九教科すべてで満点という前代未聞のスコアを叩き出し、なんでもないことだと言うように平然としている。  その態度は一年一組においては不興を買った。  親しくなろうという態度を見せていた上位グループの三人に歩み寄ろうとしないばかりか、水越さんのプライドをくだき、金元さんを袖にして、あげく町のことを見下してみせた。  麗奈の周りに透明な壁が作られた。  見ることも触ることもできない壁は硬く冷たく、麗奈を閉じ込めておきながら存在しないかのように扱う。  奈緒も麗奈にどんな態度をとればいいのかわからなくなっていた。  約束を破った理由をいまさら聞くこともできず、かと言って不満と不審は解消されぬまま心のなかで燻っている。消化できなくなった感情が渦巻いて言葉が交わせない。  その麗奈は、クラスのことなどどうでもいいという態度を続けている。強がりとは違う。その瞳はおどつきもせず遠いなにかを映している。それはいったいなんなのかと、気がつけば強い引力に引かれるように麗奈を目で追っている。  まるで、地を這う人間などお構いなしに廻る夏の夜の星空のように、麗奈は輝きながら遠ざかっていく。  もう一度、あの夏の風を感じたい。  そう思っているのになにもできないまま夏休みを迎えてしまった。  毎日廊下や昇降口ですれ違い、教室という空間を共有していた麗奈の姿はぷっつりと消失した。  外出したときはあちこちに目を走らせた。コンビニにも本屋にも麗奈の姿はなかった。  図書委員の当番日以外にも学校の図書室に顔を出した。  『社会』のコーナーにも、貸し出し記録にも麗奈の痕跡はなかった。  わたしと麗奈だけだったら、もう一度話せる。  どこかでばったりと出会えたなら。  あの日、わたしとの約束を破った理由さえ聞けたなら。  けれど、麗奈とつながる糸は完全に切れてしまった。  麗奈はこの町からいなくなってしまったかも知れない。  夏休み明けは別な学校へ転校する良いタイミングだと言ったのはわたしだった。
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