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 シャワーをあがると、畳まれた服が用意してあった。  おとなしく袖をとおすと麗奈の匂いがした。  浴室から出てみると、階段に麗奈が腰かけている。立ちあがって「こっちに来て」と上がっていく。  麗奈の部屋には紅茶の香りが漂っていた。 「びっくりしたよ」  奈緒にソファを勧めると麗奈は言った。  ウッドハウスのシックな外観に似合わず、麗奈の部屋は黄色とオレンジの壁紙で、ウサギのぬいぐるみがそこかしこに座っている。  もっとクールな部屋のイメージだった。  かわいらしい部屋にいまひとつ馴染んでいない、さっき麗奈が吹いていた楽器がある。  金色に輝く太い管。細い棒とコインのような円いふたがいくつも並んでいる。主管の先はU字に大きく持ち上がり、もう一方は細くなってくねっている。  キラキラと光を反射させるその楽器は、いまは支柱を組み立てたスタンドに立て掛けてある。 「テナーサクソフォーン」 「え?」 「たぶん、サックスって聞いていちばん思い浮かぶやつ」  麗奈はそう言って金色の楽器を取り上げた。  じっと見ていたから、興味があると思ったんだろう。  麗奈は細い先端を咥えた。  バーッ! バララッ!  大きな音にびっくりしておもわず耳をふさいだ。  麗奈はいちど口を離すと、こんどは小さく吹きはじめた。  うまく音が出ないようだ。裏返ったり切れ切れになったりしている。  プスーとか、バピッとかコントロールできない音に苦心していた麗奈は、諦めてサックスを片付けはじめた。 「わたしのことなら気にしなくていいよ」 「もともと湿気があるとうまく音にならないの。そんなに集中もできてなかったし」  窓の外を見ると雨は弱まり、あがりかけている。  薄くなった雲はところどころに切れ間が見えはじめた。  たちこめていた霧も低地へ流れ去って、濡れた町を囲む傾斜地にはところどころスポットライトのように光が当たっている。  解体の決まった『白亜の城』がずいぶんと近く見えた。
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