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麗奈の顔がグッとこわばった。
「ごめんなさい……」
麗奈はうつむいて小さな声で言った。
黙って麗奈を見る。麗奈はうつむいたままなんども瞬きを繰り返す。ながい睫毛が震える。
「奈緒と約束してたあの日……あたし東京に行ってた」
東京……?
「呼ばれたの。またサックス吹いてほしいって。あたしどうしても行きたくて、そうすれば、またみんなと一緒にやれるんじゃないかって……バカだよね、真に受けて。バンドにはもう新しい子が入ってて、みんなはほんとに来たのかって顔して……あたし、ペットボトル配ったり、楽器運ぶの手伝ったりして……」
なに、それ。
そんなの麗奈じゃないじゃん、何も考えずに声に出ていた。
「そんなの麗奈じゃないじゃん。そんなところに呼び出されて、都合よくつかわれるなんて、そんなの麗奈じゃないよ。麗奈は、麗奈はさ、金元さんにも三浦君にも水越さんにも媚びたりしないし、自分の気持ち曲げてみんなに合わせたりしないのに」
「そうだよ。あたしはこんな町にいたくない。みんなと向こうでバンドがやりたい。それのに、どれだけ言ってもわかってもらえない。なんでなの……」
……え?
「ごめんね、奈緒。偉そうに言ったけど、あたしだってひとりは嫌なの。もう仲間じゃないってみんなから言われるのが辛いんだ。だけど、あたしは親に養われてる無力な高校生で、どんなに望んでもみんなといっしょにいられない……」
わたしと麗奈のなかで『みんな』という言葉が違うものを指している。
麗奈は噛みしめるように言う。
「みんなのところに帰りたい。ここじゃあたしの夢はかなわない。ここにいたらあたしはプロになれない」
麗奈はこの町のこと、好きになろうとしてたんじゃないの。この町で暮らしていこうって思ってたんじゃないの。
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