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 麗奈の家から照明器具、缶詰やクッキー、厚手の上着なんかを探し出して、すこしの本と一緒にリュックサックへ押し込んだ。  麗奈はサクソフォーンを入れた大きなハードケースを背負い、奈緒はリュックを背負った。  準備をしているあいだに、陽は傾き出した。 「急ごう」  ペダルを踏み込み、町へ侵入してくるような傾斜地に向かって走り出す。  道すがら、はっぴ姿の子どもたちとすれちがう。  背後からは祭り囃子が、ピーピーヒャララと聞こえてくる。  激しかった雨は局所的で、雨雲は短く通り過ぎた。祭りは中止にならずにすむようだ。  奈緒は一度も迷うことなく自転車を走らせる。子どものとき一度だけ通った記憶が、進むにつれてよみがえっていく。 「たしか、この道を上ったの」  傾斜地をすこしあがったところに民家があるおかげで、舗装路が中腹まで通っている。  民家を過ぎると積もった落ち葉で道路は覆い隠されてしまったけれど、それでもアスファルトで舗装されているとわかる。 「麗奈、大丈夫?」 「うん、平気」  声を掛けあいながら、ふたりは必死にペダルを踏む。  山肌を上へとあがるので、まだ太陽の光が当たっている。  とうとうアスファルトの道路は終点を迎えた。ぐるりと雑木に囲まれたなかに車がターンできるよう広い場所が設けられている。  ここまで粘ってくれた太陽もとうとう力尽きたようだ。薄墨を落としたように辺りは暗くなっていく。  上を見ると、梢のあいだに白い建物が見えている。そこへ続く最後の階段が斜面に斜めに設けてある。  子どもの時は藪をくぐるように上った覚えがあるけれど、いまは下草が切り開かれて上りやすそうだ。  ふたりは自転車を降りると、スマホのライトを灯した。  丸木を据えて作った階段は濡れて滑りやすく、水が溜まっている段もある。  手を貸し合いながら上を目指し、ふたりは最期の階段を登り切った。 「すごい……綺麗……」
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