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奈緒と麗奈は、目の前の風景におもわずつぶやいた。
頂上は平らに整地された高台で、風が吹き抜けていた。
空にはまだ残光があり、空気は雨に洗われて澄みきっている。
起伏する山肌がくっきりと遠くまで見える。
西の地平にはオレンジの稜線が引かれ、東の空は濃い紺色に塗り終えてある。
下を見ると、光が町の形を作っている。
山から光の粒が転がってきて集まったみたいだ。
風向きが変わると遠くから祭り囃子の笛の音と打ち鳴らされる太鼓の音が聞こえてくる。
オレンジの光が集中している一角が、きっと夏祭りの会場だ。
眺めているうちに空はどんどんと暗くなり、西の地平も大気を薄青に輝かせるだけになった。
星が次々と増えていく。
「こんなの、はじめて見た」
そうつぶやく麗奈の横で、奈緒は「うん、わたしも」そう言うと麗奈の手を取った。
麗奈の指はひんやりとして、細いのにとても硬かった。
「麗奈、少し寒いよ。いったんなかに入ろう」
「うん」
白亜の洋館は戸締りもされず、とくに傷んでいる風には見えない。そう思いながら見て回ると、
「あ、これはダメだ」
屋根が落ちてぽっかりと夜空が見えている部屋があった。
二階の床ごと抜け落ち、空へと筒抜けになった空間。床には白い建材が積み上がり、隙間から細木が伸びようとしている。囲われた空には星がすこし光ってみえる。
この建物はここから雨と雪とで崩壊していく。
この美しい洋館が完成したとき、こんな風に崩れていく未来なんてだれも想像しなかったはずだ。
ふたりは朽ちはじめた場所からいちばん離れた部屋に荷物を下ろした。
ここは壁も天井もしっかりしている。床の埃っぽさだけは我慢するしかない。
「すごいね、サバイバル」
麗奈はそう言って笑った。
LEDの照明を白い壁に反射させ、カロリーメイトをかじった。
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