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 あんまり静かすぎるので、スマホからラジオを流した。おだやかなDJの声とカントリー風の歌が落ち着いた時間をつくる。 「わたしね、麗奈はわたしの理想の女の子だと思ったんだ」 「意外だね。金元さんとかに憧れてると思ってた」 「ううん、そうじゃなくて、麗奈はわたしと同じ考え方をするって思い込んでたの。感動することも、許せないことも、麗奈はわたしとおんなじで、わたしと同じ結論を出すんだって。そんなわけないよね。わたしはわたしでしかない。麗奈だって麗奈のままのはずだよ」  麗奈は黙って聞いている。  ラジオのなかでDJが番組にひと区切りをつけた。  時計を見ると、九時半になろうとしていた。  麗奈は体を起こしケースを引き寄せる。金色に光る楽器を取り出す。  奈緒も立ち上がる。  麗奈は首にテナーサクソフォーンを下げ、外に歩み出た。  夜空を見上げてふたりは言葉を失う。  空一面にものすごい数の星がまたたいている。  おなじだけの宝石を集めてもこの星空にはかなわないと奈緒はおもう。  地からは遠い祭り囃子が聞こえている。甲高い笛はピーピーヒャラヒャラと速いリズムで吹き散らされ、太鼓は乱れ打ちになっている。  空と地の間を涼風が吹き抜け、そのなかにふたりだけがたたずんでいる。  遠くから聞こえていた祭り囃子が、唐突に止まった。  激しく打ち鳴らされていた太鼓もだ。  祭りが引けたのだ。  風のなかにしばらく耳を澄ませていた麗奈は、静かにサックスを咥えた。深く息を吸い込む。    バー、バララー、パラッ、バッパーバラッ  苦い煙のような音色だった。  深みのある響きは重く苦しく、それでも前へ、身をよじってでも前へ進もうとするかのように空を伝っていく。  麗奈はいつまでも吹き続ける。  遠く遠く、山の向こうへ響かせるように。  高く高く、星まで手を伸ばすように  他に奏者はいない。  麗奈だけの(かなで)を、わたしだけが受け止める。
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