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長い余韻を引いて麗奈の演奏は終わった。
奈緒はたったひとりの拍手を送る。
麗奈は黙ったまま、そっと奈緒に抱き着いた。
「わたし、吹けるんだ」
「麗奈……」
「ひとりだって吹ける。当たり前なのに。わたしはみんながいなくたって、わたしはここでだって……」
「そうだよ、麗奈」
「奈緒……」
夏の風が吹いた。
星がわたしたちを中心に回っていく。
夜が明けるまで、星を眺め、麗奈はときおり吹いた。他愛もない話をし、本を読み、一緒に沈黙し、すこし眠り、またおしゃべりをした。
「こんど、川にいこうよ。足を水に浸けて、魚捕まえて焼いて食べよう」
「いいね」と麗奈は口の端を持ち上げる。
「美岬とも仲良くなってあげて」
「うん、あたしもそうしたい」
空が明るくなってきた。
わたしたちはたったひと晩の、ふたりだけの冒険をした。
誰よりも大切な親友として。これからも付き合い続けたい相手として。
「帰ったらふたりとも大目玉かもね」
「後悔してる?」
「ううん、わたしがやりたいって思ったんだもの」
「そっか。じゃあ一緒に叱られよ」
「叱られよう」
わたしと麗奈は扉を開けた。この夏の夜に、それぞれの扉を。
(了)
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