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 麗奈との出会いはまるで夏の風のようだった。  彼女の長くて黒い髪は打ち寄せる波のようになびき、おおきな瞳はキラキラと輝いていた。  彼女は六月終わりという、不思議なタイミングで転校してきた。  「東京から来ました」  そう挨拶した麗奈は、すぐにクラスの上位グループに気に入られ、わたしはそれを離れた席から眺めるばかりだった。  クラスのヒエラルキーを麗奈は一瞬で打ち破ったのだ。  冷たいプールに飛び込むような勇気で、わたしは彼女に話しかけた。  麗奈は驚いた顔をあげ、その手にある本をみてわたしは麗奈に抱きつきたくなった。  麗奈はわたしを裏切った。そのせいで、わたしはクラスから無視される麗奈にどう接すればいいのかわからなくなった。  土砂降りの雨のなかで、わたしと麗奈はふたたび出会った。わたしたちの千切れた糸は、差し伸べられた麗奈の手によってもういちど結ばれたのだ。  わたしと麗奈のあいだで、その言葉が指すものが違っていた。麗奈のことが可哀想になった。
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