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「「オムライス!」」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「急に飛び出しちゃダメよ。買い物に行く前には、ちゃんと冷蔵庫の中を確認してね」
「うん」
彼は、私の部屋の冷蔵庫を開け、そして、驚いていた。
「……こんなに……」
「あなたがね、急に買いに行かなくていいように、先に買っておいたの! たまご!」
「俺、意識が戻ってからも、何かをしなくちゃ……って思いにずっととらわれていたんだ。今日、それが分かったよ。俺はキミにオムライスを作る! それを今、はっきりと思い出せた!」
「……ごめんね……」
「すべてを思い出したよ! 俺は卵を買いに行って、それで車にはねられたんだ……」
「そう……私のせいで……」
「そんなことないよ。俺が浮かれていたのが原因さ。今だって、冷蔵庫の中を確かめないで飛び出そうとしたし……」
「今まで黙っていて……ごめんなさい……」
「いや、これでよかったんだよ。こうやって、自分の力で記憶を取り戻せたし……なんだか、自信がついてきた!」
「こんな私のこと、嫌いになったでしょ……」
「そんなことないよ! 俺、今まで記憶があいまいだったけど、やっと俺の生きる目的を思い出せた。俺はキミを幸せにする。それが俺の生きる目的!」
「ありがとう……」
私は泣き崩れた。
「よ~し! じゃあ、俺様特製の、とびきり上等のオムライスを作るぞ~!」
* * *
彼が作ってくれたオムライスは、今までの人生で一番おいしいオムライスだった。
彼は言った。
「お誕生日おめでとう! そして、今日は俺にとっても、新しい自分が誕生した日になったよ」
「ありがとう! 来年の誕生日も、オムライスを作ってくれたら嬉しいなぁ。卵は私がちゃんと買っておくからね!」
「ああ、任せろ! 何があっても、俺はきっと忘れない!」
< 了 >
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