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私からあなたへ
最初で最後のプレゼントを贈ります
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「はぁ…」
もう何度目かわからないため息をついた。
この季節になると、部屋の前にある桜の木が満開を迎えて美しい桜吹雪を作る。
ここでこれを見るのは今年で"10回目"。
正直1人で見るのなんて慣れっこだった。
ここで一緒に桜を見てくれる人なんて誰もいない。
ふと窓から外を見れば、赤や青、緑のリストバンドをつけた幼い子達が花びらを集めてはしゃいでいる。
赤…青…緑…
自分のリストバンドは紫。
赤や青のリストバンドは短期入院、緑のリストバンドはお見舞いに来た人達がつける。
そして私がつけている紫は、長期入院の中でも…治療が難しいの人達がつけるもの。
私は昔から神経障害があって手足をうまく動かすことができない。
常に車椅子で生活だし、ずっと座っていることさえ難しい。
だから…好きなように遊んでる子達を見ると虚しくなって羨ましくなって苦しくなる。
1人で落ち込んでいると、病室の扉がノックされた。
「はい…」
掠れた声で答えるとそっと扉が開いた。
「夏輝(なつき)さん、トレーニングの時間です」
いつもの看護師さんが笑顔で入ってくる。
毎日1時間程、手足を動かす練習をしないといけないので、今日も私は看護師さんに連れられ、トレーニング室に向かう。
「そういえば最近、夏輝さんと同じ歳くらいの男の子がこの病棟に来たのよ」
車椅子を押しながら看護師さんは口を開く。
「ここの病棟に、ですか、?」
ここの病棟は紫色のリストバンド、すなわち…家に生きて帰るのがほとんどできない人が集まる病棟だ。
そんな病棟に私と同じ歳くらいの人なんていないに等しい。
「そうよ、綺麗な顔した子でね。個人的に夏輝さんと仲良くなれそうな雰囲気っていうのかな?そんな感じがするの」
仲良くなれそう、?
学校にも通えなくて同年代の人達とほとんど喋ったこともない私が?
頭は一瞬で?マークに支配され新しい人のこと以外考えられなくなってしまった。
「お疲れ様、また明日ね夏輝ちゃん」
頭に?マークを抱えたままトレーニングは終了した。
トレーニング担当の先生に手を振り、看護師さんと病室に戻る。
部屋に入ろうとしてふと隣の部屋の扉が閉まっていることに気がついた。
両隣は空き部屋でいつも扉が開けっ放しになっている。
「あ、さっき言った子がここの部屋よ。ちょうど夏輝さんの部屋の隣ね」
私の気持ちを察してくれたのか、車椅子を隣の部屋まで押してくれる。
私は何かに操られたように、コンコンッとノックをしてみる。
「どうぞ」
少し低めの声が私の耳に届いた。
扉を開け、私はベットに目を向ける。
そして、固まってしまった。
美しい桜吹雪をバックに、彼の大きいぱっちり二重の目と私の視線が重なる。
見つめ合うこと数秒。
彼は微笑みながら口を開いた。
「はじめまして、きれいなお嬢さん」
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