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「はじめまして、きれいなお嬢さん」
きれいなお嬢さん??え?なに?誰のこと言ってんの?私?あ、看護師さん?ん?
混乱する頭で必死に考えを巡らせる。
そして私が初めて彼に言った言葉は
「ナンパしてんの?」
だった。
彼は大きな目をパチリとさせ、しばらくしてお腹を抱えて笑った。
「ごめんごめん、君があまりにも本気なトーンで言うもんだからつい」
笑いすぎで目元に涙が浮かんでいる。
私そんなに面白いこと言ったかなぁ…
1人で疑問に思っていると彼が再び口を開いた。
「改めて、はじめまして!俺は佐倉 遼馬(さくら りょうま)この春で高校1年生になったんだ。君は?」
いつの間にか看護師さんはいなくて、彼-佐倉君-の病室に2人きりになっていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。
だってーーー
「さくらって…私も名字さくらだよ!櫻 夏輝って言うんだ!ってめっちゃタメ口だけど先輩だ…」
同じくらいの歳と言っていたから勝手に同い年だとばかり思っていた。
私はこの春で中学3年生になった。
学校に通っていないから実感湧かないけど。
「ほんと?!同じ名字なんて、なんか運命みたいだ!あぁ、いいよいいよ!先輩とか気にしなくて。高1って言っても俺、学校通ってないからさ〜形だけなんだ」
彼のニコニコしながら言う言葉は、表情とは違ってとても重いものだった。
でも、そう思うのと同時に失礼ながら嬉しくもあった。
学校に通えていない、その共通点がなぜかすごく嬉しかった。
「ごめんね、初対面でこんな話しちゃって。でも、ここで出会えたのはきっと何かの縁だと思うんだ。よかったら君のことも教えてくれない?」
黙って聞いていると、彼に微笑みながらそう言われた。
「私はこの春で中3になりました。佐倉君と同じで学校に通ってはいませんけど…私は昔から神経障害があって4歳の時からずっと病院生活です。
毎年、この季節が大嫌いなんです…新しい道に進む人が大勢いる中、私は1人病院でなんの変哲もない日々を過ごしているなんて…
しかも名字が『さくら』なので、自由に散っていく桜を見るたび『同じ桜なのにな』って虚しくなります。
一緒に桜を見て『きれいだね』って言い合えるような人もいませんし…」
思っていたことを全て吐き出すように言うと、彼は私より一回り大きな手で私の手を包み込むように握ってくれた。
「本当に運命みたいだ。俺が思ってたこと、それと同じことを今、夏輝ちゃんが言ってくれた」
そう言い、彼は再び笑った。
「もし夏輝ちゃんさえ良ければ毎日お話しない?ここの病棟、中高生誰もいないみたいだからすごく退屈しててさ〜」
出会ってたったの10分程。
それなのにずっと昔から知っている人みたいに話をすることができる。
私が彼の提案にうなずくと彼は、今日1番の笑顔を見せてくれた。
それからの毎日は《モノクロの世界》から《カラーの世界》になったように楽しい日々だった。
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