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それからの毎日は《モノクロの世界》から《カラーの世界》になったように楽しい日々だった。
気づけば彼と出会ってから半年が経とうとしていた。
暖かく過ごしやすい季節から、汗ばむ季節へと変わり、涼しく過ごしやすい季節へと変わった。
すごく時間の経過を感じる。
そんなある日。
いつものように、彼と他愛もない話をしていた時。
突然、右手に鋭い痛みを感じた。
「いった…」
思わず痛みで顔を歪ませると彼は心配そうに大丈夫?と声をかけてくれる。
「ごめん、たぶん大丈夫。一瞬だったし気のせいだったかも!」
彼に余計な心配をかけたくなくて笑顔で答える。
「体調悪かったらすぐ言うんだよ?夏輝は女の子なんだし無理しちゃダメだよ?」
出会ったときはちゃん付けだった名前も、知らず知らずのうちに呼び捨てへと変わった。
「ありがとう、遼馬」
それは私も同じことだけど。
遼馬と別れ、部屋に戻る。
気のせいだったのかもと思いたかった。
私の勘違いだと思いたかった。
でも、ズキズキと痛みが広がっている。
やはり気のせいではなかった。
悪い予感がよぎったが『絶対違う』と自分自身で否定して看護師さんにも黙っていた。
しかし、10年も私のことを見ている看護師さんが私の異変に気づかないはずがなかった。
検査室に連れて行かれ、レントゲンや様々な検査を行った。
そしてーーー
「右腕の神経細胞と左足の一部が『がん細胞』になっています。一刻も早く手術をしたほうがいいかと」
1人きりの病室で告げられたのは、14歳の私には信じがたい内容だった。
がん細胞…?手術…?
言葉の意味は理解できるのに、それが現実だとは到底思えなかった。
「しゅ、手術を受けないと、ど、どうなるん、ですか、?」
カラカラになった喉から必死に声を絞り出す。
「がん細胞が体のいろんな部分に転位します。夏輝さんの場合、もう既に右腕、左足に転位しています。放っておけばそのうち肺などの器官にも転位してしまいます」
淡々と言われるがなにも頭に入ってこない。
手術を受けないと死ぬということだろうか…
「す、少し時間を、ください…」
今の私の身体の状態を一通り聞いた後、病室を出て行ってもらった。
手術って、いくらかかるんだろう…
再び1人になり考えること20分。
私の頭の中にはそれしかなかった。
だって私に両親はいないから。
私が3歳の頃に両親共に他界した。
それからは祖父母が面倒をみてくれている。
入院費だけで手一杯の祖父母に、手術でまたお金がかかるなんて言えば、どんな言葉が返ってくるだろうか。
想像しただけで鳥肌が立つ。
それに仮に手術が出来て成功したとしても、私の神経障害全てが治るわけではない。
つまりこれから先も祖父母に迷惑をかけてしまうことになる。
そんなことなら、いっそ早く死んでしまったほうがいいんじゃないか?
次の日、目覚めた私の頭の中にあったのはそれだけだった。
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