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そして…書き終わるのと同時に私は意識を手放した。
俺は夢を見ていた。
俺と夏輝が健康で、外で走り回って、同じ学校に通って…
そんな夢を見ていた。
幸せな夢だった。
だからこそ、不思議に思ったのかもしれない。
目が覚め、時計を見ると夜中の3時半を指していた。
夏輝は大丈夫かな、そう思いそちら側に体を向けた瞬間。
全身、鳥肌がたった。
備え付けの机に突っ伏している夏輝。
涙を流しながらこっちを向いているが、目は開いていない。
「な、夏輝…?大丈夫か?」
問いかけても返事がない。
痛む心臓を必死におさえながら、ゆっくりと近づく。
「ねぇ、夏輝…答えてよ…ねぇ、夏輝!!」
体を揺さぶっても耳元で叫んでも何も反応がない。
頭ではわかっていた、いつかはこの日がきてしまう、と。
それでも現実は受け止められなかった。
こんなにも唐突にやってきてしまうのか。
看護師さんを呼ぶこともできず、夏輝にすがりつくようにして泣いた。
声を上げて、大粒の涙を流して、泣いた。
その声はナースステーションまで届いたようで、すぐに看護師さんがやってきた。
頭ではわかっているのに、どうしても現実だと受け止めきれなかった。
次の日に俺は、元の病室に戻され1人になった。
昨日、涙が枯れるほど泣いたから涙が再び溢れることはなかった。
それでもつらいし、しんどいし、さびしい。
1人きりの病室で行き場のない感情と闘っていると、部屋のドアがノックされた。
「…どうぞ」
昨日、声を上げて泣いたせいで声がうまく出ない。
ドアが開いて入ってきたのは70代くらいのおじいさんおばあさんだった。
「はじめまして…夏輝の祖父母です…」
俺のベッドの前まで来ると深々とお辞儀をした。
「は、はじめまして…」
なんとか声を絞り出し受け答えをする。
「佐倉 遼馬君だよね?夏輝と仲良くしてくれて本当にありがとう。夏輝のために泣いてくれてたって看護師さんから聞いたわ」
夏輝は俺のことを話していたのだろうか?
ありがとう、と言って笑うおばあさんは夏輝とそっくりだった。
「これ…夏輝が書いてたみたいなの。私達宛とあなた宛に…」
そう言っておばあさんは俺に紙を差し出してきた。
そこに書いてあったのは…
夏輝からの最後の言葉だった。
『遼馬へ
1年にも満たない間だったけど私と仲良くしてくれて本当にありがとう!
大好きって言ってくれたときは泣きそうなくらい嬉しかったのを今でも覚えてる笑
私が手術を受けないって決めた時怒ってくれたの…怖かったけどすごく嬉しかった。
私のことをそんなに大切に思ってくれているんだなって!
それからの投薬治療でも毎日支えてくれて本当にありがとう。
遼馬がいなかったら私はとっくに死んでたかもしれないよー
それでね…
私が死んだ時、もし遼馬にドナーがいなかったら、私の心臓あげる。
臓器移植っての前に先生から聞いたんだ。
心臓にがんはできてないって先生が言ってたからたぶん大丈夫だと思う。
もちろん、使えないとか先生に言われたら仕方ないけど…できればもらってほしいな!
そしたら私も遼馬と一緒に長生きできるでしょ?
それに一緒に桜を見ることもできるし!
約束破ってごめんね…でも、遼馬なら連れて行ってくれるよね!
最後になるけど好きになった人が遼馬で本当によかった!私を好きになってくれて本当にありがとう!
私の分まで長生きするんだぞ!あんまり早くこっちに来たら怒るからね!
櫻 夏輝より 』
枯れたと思った涙がまた溢れてきた。
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