1751人が本棚に入れています
本棚に追加
「――お嬢様」
扉の外から聞こえた声は、どこか戸惑いを含んでいる。
「ソフィー? 早かったわね――」
扉が開かれる。
と、何も持たず暗い表情で立つソフィーの隣に、燕尾服をまとった初老の男性が一人。
「マークス」
そう。彼は、当家の執事であるマークス。
無愛想で、堅苦しくて。お父様の、忠実なる"目"。
「無事にお目覚めになられたようで、安堵いたしました」
(ちっとも思っていないくせに)
「そう、ありがとう。心配かけたわね」
礼を告げる私が物珍しかったのだろう。
マークスはぴくりと片眼鏡の奥で眉を動かしたものの、
「お目覚めになられたばかりで恐縮ですが、お客様がお見えになられております」
「私に?」
「アメリア・クランベル様が、お見舞いにと」
「!」
(アメリア! さっそくあなたに会えるのね……!)
「わかったわ。支度をするから、応接間でもてなしておいてくれる?」
「お嬢様!? お会いになられるのですか……!? まだ、つい先ほどお目覚めになられたばかりですのに……!」
真っ青な顔で告げるソフィーに、私はにこりと微笑んで彼女を部屋の中へ招く。
「着替えを手伝ってちょうだい、ソフィー。大事な……そう、大事なお客様なのだから」
最初のコメントを投稿しよう!