デリカシーのない兄の利用価値

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 唐突に投げかけられた言葉に、オルガを見遣る。  先ほどまでのデレデレとしまりのない顔はどこへやら。  その眉間には、不可解と不満がありありと刻まれている。 「それとも本当に、アメリア嬢を罠にかけるつもりではないだろうな」 (……ファーストダンスの件を言っているのね)  呆れた。  医者から容態すら聞いていないだなんて。 (そんなことだろうとは、思っていたけれど) 「お医者様の話では、頭に強い衝撃が加わった形跡はなかったとのことですわ。それに、ファーストダンスの件につきましては、さきほどお話した通りです」 「やはり、まだ頭がぼんやりしているなんてことは……」 「心を入れ替えたのです」  私はにっこりと微笑んで。 「三日間も眠り、このまま目覚めない可能性も捨てきれなかったと聞きました。……死ぬのなら、ほんの少しでも誰かに惜しまれる命でありたいと。そう、考えたのです」 「………」  何やら難しい顔で黙ってしまったオルガに、少しだけ違和感。  前の……私の記憶にあるオルガならば、即座に「お前ごときが、惜しまれる命だと?」と鼻を鳴らして蔑んできたに違いない。
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