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あの人のためのドレスなんて着ない
「本当にお着替えなさらずによろしいのですか? お嬢様」
心配そうな表情のソフィーにこう問われるのは、もう何度目になるだろう。
私は「平気よ。完璧だわ」と微笑んで、夕焼けに染まる馬車に乗り込む。
向かうは皇城にて開催される、特別なパーティー。
十二の誕生日を迎えたルベルト殿下の洗礼を祝う場であり、私とアメリア、二人の聖女候補が婚約者候補として正式にお披露目される日。
(とうとうこの日が来たのね)
「緊張しているのか」
揺れる馬車の中。
対面の席で寛いでいたリューネが、顔を上げて訊ねて来る。
「少しだけ。今日は絶対にしくじるわけにはいかないもの」
多くの貴族や、皇室御用達の商家が集まる今日。私の印象は一気に広まる。
ここで対応を間違えれば、前回のように"金の聖女、銀の悪女"と呼ばれる結果になってしまうだろう。
すべてはアメリアの思惑通りに。
「そう気を張ることもないだろう」
リューネは顔をおろして、組んだ前脚の間に鼻先を埋める。
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