あの人のためのドレスなんて着ない

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「頼りになるお兄様がいて、本当に心強いですわ」  エスコートの形に曲げられた腕に手を添えにっこりと見上げれば、オルガは頬を染め視線を背ける。 「そうだ! 優秀な兄を持ったことを感謝すべきだな!」 (これは照れ隠しね)  ふふ、と小さく笑む私をちろりと見下ろして、オルガはおずおずと視線を彷徨わせる。 「それはそうとミーシャ、その……いつもとドレスの雰囲気が違うようだが」  こうした格式高い夜会への主席は初めてとはいえ、私的に開かれたガーデンパーティーやお茶会には何度か参加したことがある。  当然、定期的に開かれていたルベルト殿下とのお茶会も。私は常にドレスを変え、めいっぱい飾り立てていた。  おそらくは、それらと比べての感想だろう。 (まあ、今回はわかりやすく"違う"ものね)  ルベルト殿下の生誕に伴い、社交界ではとあるルールが追加された。  それは、殿下の髪の色に似たコバルトブルーと、その瞳を思わせるルビーレッドの色を使ったドレスは、彼の婚約者候補にのみ許されるというもの。  少しでも彼の気をひきたかった一度目の私は、この二色ばかりを使い、豪華なドレスを仕立てていた。
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