あの人のためのドレスなんて着ない

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 回帰する前に仕立てた訪問着も、案の定、この二色を主体としたものばかり。  けれど今回私が纏うのは、美しく繊細な刺繍と散りばめた小粒の宝石をアクセントにした、私の髪と同じ銀色のドレス。  形も今流行りのレースをたっぷりと使ったボリュームあるシルエットではなく、柔らかな生地で、動いた際の揺れが引き立つようなシンプルな形にしてもらった。  髪も周囲のように装飾品を重ねごてごてと飾るのではなく、簡単なアレンジのみ。  仕上げに、小ぶりながらも光の反射が美しい宝石を連ねた、華奢なヘッドドレスを。  華美さではなく優美さを追求したこのスタイルが流行りだしたのは、確かあと三年くらい後だったけれど。 (元のドレスを着るくらいなら、少しくらい流行から外れていたって構わないわ)  本来、ドレスの仕立てには時間がかかる。  今回の私も当然、回帰前にすでにこの日のためのドレスを注文していた。  ルベルト殿下の瞳と同じ、ルビーレッドのドレス。  胸元と裾には殿下の髪の色を意識したコバルトブルーの宝石をあしらった、徹底ぶり。 (一度目の私は、あのドレスを着てファーストダンスを踊ったのよね)
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