あの人のためのドレスなんて着ない

10/10
前へ
/644ページ
次へ
 コツコツと足音を響かせ、近づいていたその人。  私は動揺をきっちり隠して、スカートの端を摘まみ上げ、淑女の礼をとる。 「帝国の星、ルベルト皇太子殿下。ミーシャ・ロレンツがご挨拶申し上げます」 (アメリアに気を取られて、気が付かなかったわ)  絹糸のように繊細なコバルトブルーの髪に、冷ややかながらも美しいルビーレッドの瞳。  記憶にある青年の姿と比べると、当たり前ながら、まだまだ子供のように思える。  けれどもそれは、"見た目"だけだとよく知っている。  ルベルト殿下は、私の挨拶に軽く頷いたのみ。  感情の見えない面持ちで私とアメリアに右手を伸ばし、 「時間だ。行こう」
/644ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1748人が本棚に入れています
本棚に追加