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彼は堅い表情のまま地に蹲るアメリアに近づくと、その肩を支えて立ち上がらせた。
「殿下……っ!」
アメリアが濡れた瞳で縋るようにして見上げる。
「きっと、何かの間違いなのです……! ミーシャお姉様がガブリエラの巫女なはずがありません! 私が、そう、きっと私が"悪女"であるはずで……!」
「……あなたの気持ちは、承知した」
宥めるようにしてアメリアの頬に伝う雫を親指の腹で拭ってやる仕草に、ズキリと心が痛む。
私は、殿下が好きだった。
たとえ聖女が決まるまでの、仮初の婚約者だったとしても。
たとえ彼が、たったの一度も私に笑いかけてくれなかったとしても。
皇帝陛下によって義務付けられていた月に一度のお茶会が、私にとっては心弾む至福の時だった。
いつか――この気持ちに、少しでも。
ほんの僅かでも応えてもらえる日が来るのではないかと、星に願った夜は数え切れない。
なのに。
「で……んか」
声が震える。
アメリアへ注がれていた労わるような瞳が、冷酷さをもって私を捉えた。
「ミーシャ・ロレンツ嬢」
紡がれる音は刃のように冷たい。
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