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ダンスフロアの中央に近づく私に、一曲踊ったとは思えないほど涼しい顔をしたルベルト殿下の右手が差し出された。
「手を」
(本当、無愛想な男)
でも、そんなところも好きだった。
言葉数が少なくとも、その目と見つめ合い、触れ合えれば。
いつか心が通じて、誰よりも幸福になれるのだと信じていた。
(愚かなことね)
その手を振り払ってやりたい衝動をぐっと耐え、私は「よろしくお願いいたします」と優美に笑んで手を預ける。
途端、少々強い力で腕が引かれ、腰に手を回された。
「!」
(私相手なら、雑に扱ってもいいってことかしら)
嫌うのは構わないけれど、こうして公の場でぞんざいに扱われるのは気に入らない。
怒り半分、呆れ半分で見上げると、意外にも強い瞳とかち合った。
(殿下……?)
嫌悪の感情ではない。
まるで、私という存在を隅々まで把握して、見極めようとしているかのような。
(知らない目だわ)
私の知る彼の目は、興味の持てない相手に向けるそれか、嫌悪。
そして、私の胸に剣を突き立てた、冷酷な色。
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