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戸惑いながらもホールドの体制をとったと同時に、音楽が変わった。
周囲には、私達と近い年頃の子息令嬢のペアが円を描くようにして並び、踊り出す。
(とにかく、集中しなきゃ)
ダンスには自信がある。
ルベルト殿下に相応しい婚約者となるために、前回の私が必死に練習していたから。
(けれど、このダンスは殿下のためではないわ)
もちろん、彼の気を引くためでもない。
公爵令嬢として、そして真の聖女として披露する、私のためのダンス。
そう思うと、億劫だったダンスも足が軽くなる。
「……今日は随分と様子が変だな」
「え?」
(殿下が話しかけてきた?)
聞き間違いではない。
なぜなら殿下の目は、私の返答を待つようにしてこちらを見下ろしているから。
(ダンスの時に話しかけてきたことなんて、一度もなかったのに)
私から話題を振ることはあったけれど、「ああ」とか「そうだな」とか生返事ばかりだった。
(いったいどんな風の吹き回し?)
「……緊張しているだけですわ」
「緊張で、ドレスは変わらないだろう」
「へ?」
ルベルト殿下はくるりと回した私を再び受け止めて、
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