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「ルベルト殿下が洗礼を受けられ、私達が正式な婚約者候補としてお披露目された十歳の時に、たしかに教えられましたわ。まさか、忘れてしまったのですか? お妃教育において、いつだって私よりも優秀だったミーシャお姉様が、どうして……」
(そんな、嘘よ)
ルベルト殿下に少しでも気にかけてもらいたくて、お妃教育は常に完璧を目指した。
私が教えられた内容を忘れるなど、ありえない。
(なら、アメリアが嘘を……? いいえ、それこそありえないわ)
だってアメリアはいつだって。
今だって、私を助けようとしてくれていて――。
「なっ、なら、あなたの病気について話してちょうだい。アメリアの病気を治すために、この洞窟に咲くテネスの花が必要だったのだと――」
「なにを、おっしゃっているのですか。お姉様」
それまでの掠れが消えた、鈴の音に似た愛らしい声が洞窟に反響する。
「私、病気など患っておりませんよ?」
「…………え? だって、ほんの六日前だって……! 私がお見舞いに行ったでしょう? そこで、あなたの主治医が言ったのよ。アメリアの病を治すには、この洞窟に咲くテネスの花しかないと――」
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