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傍らには、今し方彼女を捕らえていた巨大なピンクの花が落ちていた。ぴくぴくと小刻みに震え、あからさまに弱っている。その原因はすぐに分かった。
茎が途中で断ち切られていた。そこから何やら蛍光イエローの粘性の液体が溢れ出ている。アンモニアみたいな、ツンとした刺激臭。甘い花の香りと混ざり合って、何とも吐き気を催す。
同じものが上からぼたぼた落ちてくるのを見、少女は鼻を顰めながら天井を仰いだ。そこには巨大な緑の葉が生い茂っており、中央から太い綱のようにぶらぶらと残された茎の半分が吊り下がっていた。
いずれも綺麗な切断面。誰かが真っ二つに花を切り落としたらしかった。一体、誰が?
更に視線を巡らせると、少女はその答えを知る。
木のオブジェの影に、継ぎ接ぎだらけの着ぐるみの紫の熊が居た。ツキノワグマのつもりなのか、胸元には先刻空に昇っていたような紅い満月がパッチワークされている。
大きなボタンを無造作に縫い付けただけの目。突き出たマズルには口が描かれてはおらず、完全なる無表情。手には樵が持つような大きな斧が握られていた。
妖精の話を思い出す。
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