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「もしかして……ナイトベア?」
問い掛けに対し、紫の熊は無反応だった。まるで置物のように、じっとしたままボタンの瞳でこちらを見つめてくる。果たしてあれでちゃんと目が見えているのかは不明だが、じっとりと纏わりつくような厭な視線は確かに感じられた。
「えっと、助けてくれた、の?」
居心地の悪さを誤魔化すように、努めて明るく少女が声を掛ける。熊は依然変わらず、微動だにしない。
「あの……ありが、とう?」
更に重ねて礼を言うと、熊は初めて動きを見せた。体の横に提げていた斧を胸の前で構え、それから――。
ブォンッ、凄まじい風音が少女の耳元を過ぎり、ぴしゃり、顔に何か生温かいものが掛かった。ツンとしたアンモニア臭。背後で重たい衝撃音。
頬に触れる。指先にべたりと粘つく感触。例の蛍光イエローの液体だった。それを確認してから振り向くと、対岸の木の幹に無骨な一振の斧が突き立っているのを見つけた。刃先にへばりつく蛍光イエローの液体が、どろりと重力に従い滴り落ちる。
(攻撃された!?)
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