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『シフォン! おいで!』
少女が腕を広げて呼び掛けると、ふわふわの尻尾を左右に振って、感極まったように飛び込んでくる。ペロペロと頬を舐められるこそばゆい感触に、少女は笑ってはしゃいだ。
「まりあ! 良かった、無事だね!」
少女の中に残されていた記憶をなぞるように、目の前の小型犬も全く同じ行動をした。はち切れんばかりに尻尾を振りながら、飛びついて顔を舐める。「何か苦い」と舌を出したのは、たぶんあの謎の蛍光イエローの液体の所為だろう。
少女は唖然と呟いた。
「……シフォン?」
そうだ、シフォンだ。〝詩奔〟と書いて、詩奔。自分の〝真現実〟という名前に負けず劣らずの当て字っぷりは、同じ人物から名付けられた証拠。シフォンは、少女まりあの家の飼い犬なのだが――。
「シフォンが喋った!?」
まさかの事態に、まりあは大いに面食らった。愛犬が人語で話すなんてことは、勿論これが初めてだ。
それに、シフォンは数年前に亡くなっていた筈だった。
「どうして……ああ、そっか。これ、やっぱり夢なんだ」
「そうじゃないんだ。まりあ、落ち着いて聞いて」
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