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しかし、シフォンが話す間は与えられなかった。ふと何かに気を取られたような反応を示すと、白いチワワは鋭く告げた。
「まりあ、走って!」
「え?」
シフォンの視線の先を辿ると、今まさに紫の熊が〝フェアリー・ライド〟のアトラクションから出てくるところだった。
例の斧はしっかりと熊の手に握られている。数メートルの距離を隔てて尚、虚ろなボタンの瞳と目が合う感覚がはっきりとあった。
熊は何の躊躇いもなく、まりあ目掛けて斧を投擲した。
「きゃあ!」
シフォンを抱いたまま、まりあは咄嗟にその場に屈み込んだ。恐ろしい風音を立てて重量級の凶器が頭上を辛くも通過していく。計算されたように斧は宙を旋回し、ブーメランよろしく熊の手元へと舞い戻った。
またも間一髪だった状況に、まりあは遅れてゾッとした。やっぱり、あの熊は彼女を狙っているのだ。妖精フルールの言っていたことは、あながち嘘ばかりではなかったのかもしれない。
「まりあ、早く!」
シフォンに促され、まりあは震える膝を叱咤して立ち上がった。
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