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第3話 この世界の正体
斧が飛んでこないように敢えて障害物の多い道を選び、ジグザグに走る。幸い、熊の動きはあまり早くはなかった。幼いまりあの足でも一定の距離は保てている。
それとも、わざと彼女の恐怖を煽る為、熊はそうしているのだろうか。のっしのっしと、じっくり地を踏みしめながら進む熊の歩みには、焦りが一切感じられない。
前方から歩いてくる人の姿を見つけ、まりあは縋る想いで駆け寄った。
「おねがい、助けて!」
「ダメだ、まりあ!」
腕の中のシフォンが飛ばした警告に、まりあが「え?」と目を丸くした直後、目前の人物がまりあの肩をがしりと掴んだ。 背を屈めて顔を覗き込まれ、まりあは心臓が止まるかと思った。それ程、その人物はショッキングな見た目をしていた。
変色して爛れた皮膚。どろり、溶けて空っぽの眼窩からぶら下がる目玉。腥い息。腐乱した肉の、鼻が曲がるような酷い臭い。
「ひっ」
ゾンビメイク……にしては、やたらと気合いの入ったその人物は、顎が外れるくらいに口を大きくがぱりと開き、怯えて固まるまりあにゆっくりと顔を寄せる。
「まりあ!」
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