第3話 この世界の正体

3/8
前へ
/189ページ
次へ
 窓から見下ろしてみると、やや遅れて紫の熊が観覧車付近までやって来る様を捉えた。そのまま下で待たれたらどうしようかと思ったが、結果それは杞憂に終わる。熊はこちらを見失ったのか、辺りをキョロキョロ見回してから、やがては全く見当違いの方向へと歩き去っていった。  その後ろ姿を見送り、まりあはホッと胸を撫で下ろした。同時に、どっと疲労感を得、椅子にぐったり体重を預ける。濡れた身体も不快だし、裸足で走って足の裏だって痛いし、散々だ。 「ぺっ、ぺっ、あのゾンビの肉、ちょっと食べちゃった。ひっどい味」  舌を出して鼻に皺を刻みながら、シフォンが床に唾を吐く仕草をする。まりあの膝の上で向き直ると、得意げに言った。 「ほらね、大丈夫だったろう? あの手の異形化の進んだ亡者は、基本的にあまり頭が良くないんだよ」 「いぎょうか? もうじゃ?」  聞き慣れない言葉だった。まりあがオウム返しすると、シフォンは真面目くさった様子で首肯した。 「そう。ここは、亡者の……死者の世界なんだ」 「ししゃの、せかい?」
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加