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第1話 迷い込んだ少女
声が聞こえる。囁くように小さく。時折、叫ぶように高く。途切れそうにか細くて、けれど力強い声。
(――だぁれ?)
誰かが自分の名を呼んでいる。よく知る愛おしい声。だけど、それが誰のものか何故だか思い出せない。発される言葉自体も自分の名だとは分かるのに、ノイズが掛かったみたいで上手く聞き取れなかった。
張り裂けそうで、切羽詰まったような、聞く者の胸を抉る、ひどく切ない音色。
(わたしを呼ぶ、あなたは誰なの?)
「ねぇ、起きて!」
耳朶を震わす大音量の声に、少女の意識は急速に覚醒へと引っ張られた。
目が合う。ぱっちりとした黒いどんぐり眼。長いツーサイドアップテールの黒髪。齢十ばかりのあどけない容顔の女の子が、床に横たわってこちらを見ていた。
小柄で華奢な身体に白いワンピースを纏ったそれは、鏡に映る自分の姿だった。一つではない。背後の壁も鏡になっており、挟まれた少女の姿は反射して無限に殖えて見える。
それに、何やら全身にキラキラと輝く光を纏っていた。ピーターパンの空飛ぶ魔法の粉こと妖精の鱗粉を塗りたくったような、そんな不思議な光だ。
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