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あの人喰い花の一件がある。幹の凸凹も何だか顔に見える気がしなくもない。急に差したまりあの不安を感じ取ったのか、シフォンが悄然と零した。
「ごめんね。ぼくが猫なら役に立てたかもしれないのに」
「そんな、いいの! あなたはそのままで充分素敵だよ」
一体、何を言い出すのか。思わず猫になったシフォンを想像して、委縮していたまりあの心は自然と解けた。自分を鼓舞して、木登りを再開する。
(うん、良かった。動かない)
木は大人しく、されるがままに沈黙していた。まりあは心底ホッとする。
「そういえば、シフォンは天国に居たんだよね。どうして、今はここに居るの?」
「まりあのピンチを知ったからだよ。神様にお願いして、ここに来させてもらったんだ。だから、ぼくには神様の加護がついてる。ぼくの傍に居る限りは、まりあの忘却の呪いもこれ以上は進まない筈だよ」
「そうなんだ」
まりあは軽く目を瞠った。そうまでして、わざわざ来てくれたのか。
胸が、じんと熱くなる。
「わたしのために……ありがとう、シフォン」
「当然だろ? 家族なんだから」
シフォンは誇らしげだ。
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