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あろうことか、自分の名前が出てこない。姿は自認出来たのに、肝心な名前の記憶がすっぽり抜け落ちていた。それに、ここが何処だか、何故こんな所に居るのかも判然としない。思い出そうとすると頭に靄が掛かったようになって、全てが有耶無耶になってしまう。
少女を気遣うように、妖精が優しい声音で告げた。
「あらまぁ、きっと迷子になって混乱しているのね。大丈夫、落ち着いたらすぐに思い出せるわ。とにかく、ここを出ましょう。案内するから付いてきて」
ひらり身を翻し、妖精が前方へと飛んでいく。僅かな蛍光灯の明かりに照らされた狭い通路は、全て壁面が鏡で覆われた迷宮のようになっていた。はぐれたらそれこそ迷子になってしまいそうで、少女は慌てて妖精の後を追う。
周囲は薄暗いが、少女自身の光が眩い為、視認性にはあまり問題が無い。もしかしたら、これは目の前の妖精の鱗粉なのでは……とも思ったが、フルールと名乗った妖精は別段光り輝いてはおらず、それだと整合性が取れない。
(やっぱり、わたし夢を見ているのかな)
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