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鏡の迷宮は荘厳で美しいが、前後不覚に陥る感覚は不安を煽る。八角形に鏡の配置された広間に出た時などは、万華鏡の内部に放り込まれたような気分になった。
今は楽しむ余裕はない。少女は無言で、ただ只管に歩いた。冷たく硬い鏡の床に素足の音だけがぺたぺたと反響して、増幅していく。まるで自分達以外にも誰かが居るような気がして、時折振り返っては背後を確認した。
やがて終着点へと辿り着くと、少女は迷宮を抜けた安堵感から深く息を吐いた。出口の扉を押し開き、外に出る。途端、目を瞠った。
紫紺の空に、紅い満月。七色に輝く大きな観覧車。夜闇に仄かに浮かび上がるジェットコースターのレール。目前では等身大のオルゴールみたいなメリーゴーランドが、楽しげな音楽を鳴らし、くるくると回転していた。
「遊園地……」
「そう。ここは、ナイトメア・ワンダーランド」
少女の呟きを拾って、妖精が説明を始める。
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