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(今日は、ハロウィンなんだ)
そういえば、お菓子の甘い香りが何処からか漂ってくる。それだと現在は十月後半ということになるが、少女はノースリーブの薄着なのに不思議と寒さを感じない。
彼女の放つ光が目を引くのか、通り過ぎるおかしな恰好の人達は皆一様にまじまじと不躾な視線をぶつけてくる。落ち着かなくて顔を背けた先、赤いハート型の風船が枯れ木に引っ掛かっているのを見つけて、少女は首を傾げた。
誰かがうっかり手放してしまったものだろうか。園内の他の風船は皆ハロウィン然としたモチーフをしている中で、あれだけテイストが違う。しかも、内部にライトでも仕込んであるのか、少女の纏う光とよく似た輝きを放っていた。
気にはなったが立ち止まると妖精が煩いので、少女は努めて風船を意識の外に追いやり、先を急いだ。
連れて行かれた先は、看板に〝フェアリー・ライド〟と記された子供向けのアトラクションだった。水の張られたコースの中を花型のボートで進みながら、飾られたオブジェを観賞する穏やかなものだ。
「この中なら安全よ」
妖精は胸を張ってそう言うが、少女は困惑した。
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