もと居た場所

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商品として売るので、当然、キャラの使用料なども、その会社と契約する。 それも初めは、よく分からないので、パソコンで検索して、教えて貰った。 その交渉や、事務などは遥が担当した。 【玲春】の作品は、どんな細かな所も、本物とそっくりに作っていて 縫製もしっかりしていると、評判は、高くなるばかりで 特に、小さな子供の物でも、手を抜く事なく、大人用と全く同じに 丁寧に縫われていると、喜ばれた。 町内会の踊りで使いたいからと、人気キャラの法被を、200枚も頼まれたり 押しのキャラ姿で、結婚式を挙げたいとか、成人式に出たいとか 変わった注文も有って、ミシン仕事は順調だった。 その仕事の、中心だった公男が、草に足を取られて転び 大腿骨を折って入院し、治って退院して来たが、すっかり体力が無くなって ミシンも踏めなくなり、車椅子生活になった。 それでも釦付けなどの、手縫い部分の仕事を頑張る公男に 二人は、車椅子でも、過ごしやすい環境を整えてやり 公男の足代わりになって、入浴やトイレなどの介護に精出す。 そして、桜が咲いたとか、牡丹寺の牡丹が咲いたとか 紫陽花が綺麗な所とか、パソコンで検索しては あちこちに連れて行って、ご当地グルメや、温泉を三人で楽しむ。 「こんな生活が出来るなんて、夢の様だ」 公男は、顔をくしゃくしゃにして、喜んだ。 そして、その喜びを抱いたまま、一年後、あの世へと旅立った。 「人生の最後に、お前たちと出会えて、本当に幸せだったよ」 と、言う言葉を残して、、、。 死因は、骨折した時に分かった、肝臓癌だった。 もう、手の施しようが無く、家で最期を看取る事になったのだった。 「お爺ちゃんが、居なくなったら、仕事にも熱が入らないわ」 「そうだな~俺たちが食うだけなら、畑と田圃で十分だし」 と、言う事で、惜しまれながらも、コスプレ服作りは、終わりにする。 それからは、自分達が作った、米や野菜を、ネット販売することにした。 服作りで稼いだお金は、まだ沢山有ったのだが 広げた畑で採れる野菜は、二人では、食べ切れないからだ。 「新鮮で、美味しい」と、米も野菜も評判が良く、お得意さんも増えて 光熱費や、税金を払う位にはなる。 今まで通り、午前中は農作業をし、午後からは、それぞれ好きな事をする。 嶺二は、自動車の教習所に通い始めた。 公男は「行く所が無いなら、家族になろう」と言った翌日 役所に行って、玲と春という名で、二人を養子にしていた。 二人は、親戚から養子に入った事になっていたが 何処に、そんな親戚がいたのか等、公男は、何も話してはくれなかった。 それは、今だに謎だったが、そのお陰で、二人には、ちゃんとした戸籍が有る 元々、免許は持っていた嶺二は、直ぐに免許を取り、中古の車を買った。 それで、あちこちに出かけては、温泉を楽しみ、美味しい物を食べたり 美しい景色を見たりする、その時は、必ず公男の写真も一緒だった。
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